フリーペーパー
ヒロシ「ねえねえ。なんで紙切れを読んでクスクス笑っているの?」
男「駅前にできた自己啓発セミナーが配っているフリーペーパーだよ。なかなかおもしろいことが書いてあって」
ヒロシ「へえ。僕も読んでみたいなぁ」
男「わるいな、このフリーペーパーひとりようなんだ」
ヒロシ「残念。あ。あそこでルナちゃんが他人ともめてるぞ」
ルナちゃん「ねえ、あなたもうちの教団を止めてしまうの?」
信者「はい。駅前にできたところのほうが、より高次元の存在に我々を導いてくれるからです。今までありがとう。さようなら。さようなら。輝く季節をありがとう。さようなら」
ルナちゃん「ああん。どうして、どうしてみんな駅前にできたカルト宗教に行っちゃうのん!」
マルぼん「それはこいつが原因ですね」
ルナちゃん「なにこの紙切れ」
マルぼん「駅前のカルト宗教が配っているフリーペーパーだよ。おもしろくって、ためになって、もうすぐ世界を終わるようなことが書いてあって、『うちの教団に入った人だけたすかりますん』ということが書いてあって、信者である有名漫画家が書き下ろし作品を掲載していて、なんだか正しいことが書かれているような気持ちになる文章が満載で、無料。こいつを読んだ心の弱い人たちが感動して、駅前のカルト宗教にはせ参じているんだ」
ルナちゃん「ちくしょう!」
ヒロシ「へえ。そんなにおもしろいのか。なんとしても読みたいな」
マルぼん「ふむ。フリーペーパーの類が読みたいと。そこらの店で、店員が趣味で作ったようなやつが配られているんじゃないか」
ヒロシ「それがオイルショックで、微笑町では紙不足。この前まで掃いて捨てるほどあったフリーペーパーも、
ほとんと見ることができなくなったんだ。哀しいね、時代ってさ。ああ! どんなものでもいいから、フリーペーパーを読みたい!」
マルぼん「そうかー。わかったよ。みらいのせかいの駅前をうろついて、フリーペーパーとか集めてくるわ」
そんなわけでマルぼん、一時帰宅を許されました。
ママさん「ごめーん、ヒロくーん」
ヒロシ「どうしたの、母さん」
ママさん「夏休みの間に新しいパパを紹介するつもりだったけど、ちょっと無理になったの。どうしようもないヘタレでね、さっきも別れ話をしてきたんだけど、『別れるなんていうなよお』と失禁しながら叫んでさ。
たいへんだったのよー」
ヒロシ「へえ」
『微笑町の大沼うどん子は、地球に生命が誕生して以来最大の俗物だ。淫乱だ。ろくでなしだ。うんこ未満の存在だ。豚を夫とし、蛆虫を伴侶とする俗物だ。夜な夜な男を漁り、全てをすすりとる。悪女のなかの悪女だ。悪女。悪女。あーくーじょー。あと蛆虫。蛆虫女。豚。豚。豚。おなかがすいた。きょえー!! 救世主より』
上記のような文章が書かれた紙が、大沼宅の近隣に大量にばら撒かれていたのは翌日のことでした。全てが手書き、全てが赤鉛筆で書かれていました。コピーしたものは一枚もありませんでした。おーるはんどめいど。
ヒロシ「これが憧れのフリーペーパー!」
マルぼん「いや、これ、怪文書」
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