誤解されるヒロシ

 ヒロシ「あ、おばあさんが横断歩道を渡ろうとしているぞ。よし、手を繋いで一緒に渡ってあげよう。さぁ、おばあさん。お手を拝借」



老婆「この人痴漢です!」



通行人「なんだって!」



通行人「やっちまえ!」



ヒロシ「ぎゃー!!」



 そんなわけで、ヒロシはひどい目にあいました。マルぼんに付き添われて警察から帰る道すがら



ヒロシ「決めた」



マルぼん「ようやく学校にいくことを決めたの?」



ヒロシ「ちがうよ。僕はもう、人に親切にすることをやめたんだ。親切にして今回のようなひどい目にあうのなら、僕は自分の欲望に忠実に生きるよ!」



マルぼん「ふうん。あ、そこに1000円落ちているぜ」



ヒロシ「よし、警察に届けに……」



マルぼん「自分の欲望に忠実に生きるのではなかったのかい」



ヒロシ「あ」



マルぼん「生まれながらの反骨精神を持つ君は、自分の欲望にすら忠実になることはできないみたいだね。仕方ない機密道具をだしてやるか。『欲棒』。この棒で叩かれた人は、自分の欲望に忠実になる。食欲、金銭欲、色欲……ありとあらゆる欲望に充実になるのさ」



ヒロシ「ようし、マルぼん、『欲棒』で僕を思いっきり叩いておくれ!」



マルぼん「よしきた!」



 マルぼん、これでもかっこれでもかとヒロシを『欲棒』で叩きます。ヒロシは泣きます。痛みからの涙なのか。新しい自分へ生まれ変わることができることに対する嬉し涙なのか。これまでの自分にバイバイするせつなさの涙なのか。それは2人の間に吹いた一陣の風だけが知っています。



ヒロシ「うへへへ。この1000円の安住の地は俺の財布だぜ」



マルぼん「見事なまでの下卑た笑い。『欲棒』の効果は絶大みたいだね」



ヒロシ「ぐへへへ。そこの道落ちていた、食べかけのみたらし団子も食べちゃうぜ」



マルぼん「あ、そこで野良犬の家族が飢えているぜ」



 ヒロシ、突然服を抜き出すと、野良犬たちの前に身を横たわらせて



ヒロシ「僕で飢えを凌ぎな!」 



 ぱくぱく。むしゃむしゃ。やったー野良犬たちのパーティのはじまりです。



ヒロシ「マ、マルぼん、この様子を写真に収めて、色々なところに送ってくれよ!」



 数日後。某宗教系の新聞にこのことが載りました。「己の命を投げ打って野良犬の飢えを救った勇気ある少年! 我々もこの少年のように強い心をもって、仏敵どもを完膚なきまで叩き潰し、粉々のちりにでもしてやらねばならぬ。つかめ大勝利!」



 こうしてヒロシは慈愛に満ちた少年として、一部で末永く語られるようになりました。マルぼんはヒロシが名誉欲にまで忠実に生きてしまうようになった『欲棒』の効果は絶大だと思いました。

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