マルぼんと人妻
ヒロシの母方のおじいさんとおばあさんが訪ねてきました。
おじいさんは「誰がどうみてもおじいさん。おじいさんに見えないやつは今すぐ眼科へ。紹介状書くから。格安で」という感じのおじいさんなんですが、おばあさんは妙に若い女性でした。「誰がどうみても若い女性。若い女性に見えないやつは、マルぼんは存在を認めません。絶対に、認めません!」
というくらい、若い女性でした。
話を聞いてみると若い女性(名前は朱美さんというらしいです)は、前の奥さんが亡くなった後におじいさんがもらった後妻だそうで、なんとママさんよりも年下なんだそうです。
ママさんと朱美さんはまるで言葉も交わさなければ目もあわせようとしないんですが、そこらへんの事情は、この世のピュアハートというピュアハートの塊のようなマルぼんが知ってしまったら、下血して即死ししてしまいそうなくらいドロドロしていそうなので、聞かない事にしました。
おじいさんは風邪気味のようで、今朝から咳が止まっていません。
昼頃になると咳はますます酷くなり、さすがに辛くなったのか、おじいさんは風邪薬を取り出し、コップに入った水でそれを飲もうとしていました。
よく見てみると薬は尋常じゃない量で、水は酒でした。
風邪薬と酒のツープラトンは、某ランキング雑誌で「保険金殺人では是非とも使いたい殺人技ランキング(対象者・主婦)」「今一番イケてる殺人方法は?(対象・女子高生)」「好きなヒーローに実行してもらいたい殺人技ランキング(対象・小学生)」「抱かれたい殺人技ランキング(対象・OL)で、連続1位を獲得した夢と希望(あと欲望)の殺人技ということを知っていたマルぼんは、持っていたバタフライナイフを咄嗟に投げ、おじいさんが薬を飲むのを阻止しました。
マルぼんが「じじい! てめえ死にたいのか! 世界では死にたくないのに死んでいく人がたくさんいるってのに、てめえ死にてえのか! 答えろ! じじい答えてみろ! その口で答えてみろ!」とそれとなく問い詰めると、おじいさんはなんのことかわからない様子で「風邪薬はたくさん飲んだほうが良いって、酒と飲んだら効果も倍増するって聞いたから」と、ただ怯えるのみでした。
年寄りをいたぶる趣味はないので、マルぼんは罵倒を止め、おじいさんに風邪薬と酒の併用の危険性をちょっとしたフィクションを交えて説明するに留めることにしました。
ところがおじいさん、今度は壁に頭を打ちつけはじめたんです。
マルぼんが止めに入ると、おじいさんは「こうやって血行をよくしたら、風邪の菌は死ぬんだ!」とワケのわからないことを口ずさむんです。
再び問い詰めてみると、おじいさんにデタラメ治療法を教えたのは、妻である朱美さんということが判明しました。
おじいさんの死への道スジを動く歩道に改造するような非道をおこなった朱美さんに、マルぼんの怒りは、電子レンジにいれた卵の如く爆発。
マルぼんは朱美さんを近所の喫茶店に呼び出し、問い詰めに問い詰めまくりました。
するとどうでしょう。朱美さんは突然泣き出し「そんな危険なことだとは思わなかった。知らなかった」と
涙ながらに語りだしたのです。
女の涙には、ヘタしたら散々苦しんだ挙句命を落とすくらい弱いマルぼんはそれ以上問い詰める事ができず、その場はうやむやになってしまいました。
根が純真で人を疑う事は一年に数度あるかないかのマルぼんは、朱美さんの話を信じ、許してあげる事にしました。
2人して帰宅すると、家の前に見知らぬ黒人男性が立っていました。
朱美さんは「ジョニィー!」とか叫ぶとその黒人男性に駆け寄り、彼と熱い抱擁をかわしていました。
しかし、すぐにマルぼんが近くにいることを思い出したのか朱美さんは「しまったー」という顔をして、一言。
「こ、この人、私の兄の正彦です! 生粋の日本人です! 別に私の情夫とか、そういうんじゃありませんから! うちの人に財産がたんまりあることなんて、この人は全然知りませんから! 風邪薬と酒の組み合わせ効果なんて、これっぽっちも知りませんから! ついでに言うと、うちの人には多額の保険金なんて
かかってませんからー!」
おじいさんの命も長くはなさそうです。
朱美さんに、兄である正彦さん(日本人。黒人)を紹介されたマルぼんは、ヒロシのおじいさんの命が
風前の灯火ということを光の速さで理解したのですが、どうすることもできません。
どうみても人間じゃないマルぼんが警察に事情を話しても「それよりキミ、国籍は?」「職業は?」「年収はどのくらいかね?」とか聞かれて俯きながら帰宅、という結果になるに決まっています。マルぼんは所詮「殺されても相手の罪状は器物破損どまり」な生き物なのです。
おじいさんにはこの危機を運だけで乗り切ってもらうしかないな、なんて考えていた今朝、マルぼんは朱美さんが家のガス栓や車のブレーキに細工しているのを目撃。
どうも、ヒロシやママさんも命を狙われているっぽいので、さすがにヤバイと思い、
マルぼんは事態を打破できる機密道具を探すことにしました。
性根が腐りに腐ってるせいか異臭すら漂い始めて、近所の人に通報されかねない(家に死体があるかもぉって感じで)状態の朱美さんをなんとかできる機密道具はないか探してみた結果、マルぼんは「これは!」と思う機密道具を見つけ出しました。
未来の世界では主に合コンでの罰ゲームで使用される、惚れ薬です。
この薬を飲まされたものは3時間ほど意識不明の状態に陥り、目覚めて最初に見た者を愛してしまうようになります。
効果は一生続き、芽生える愛は「思わず相手の家の床下に住居を作って暮らしちゃう」「思わず勝手に婚姻届を出しちゃう」「思わず相手の髪の毛をサンドイッチの中身にして食べちゃう」くらい重くて深いものです。
欲望に勝るものは、愛。欲望を塗りつぶしてしまうほど強大な、愛なのです。
マルぼんはヒロシと協力して朱美さんに襲いかかり薬を無理矢理飲ませると、あらかじめクロロホルムで眠らせていたおじいさんと共に、同じ部屋へとぶち込みました。
そして放置すること約半日、朱美さんはすっかりおじいさんとラブラブ状態になっていました。
「離さない離さないムキーッ!」「離さないで離さないでウキーッ!」とかいいながら2人は抱擁し、そのまま帰っていったので、マルぼんは一安心。めでたしめでたし。
ちなみに正彦さんは、2人の甘い生活の邪魔にならないよう、マルぼんが法に触れない手段で始末したのでもっと安心です。
マルぼんが留守番をしていると、隣の県の警察から電話がありました。
ヒロシのおじいさんの車が、ダム底から発見されたそうです。
自宅からは『私たちは本気(マジって読んだら殺しますよ?)で愛し合っています。死が2人を別つ前に、私たちは苦しみも悲しみもない幸せの国に旅立ちます。さようなら』と書かれた、遺書と見られる手紙が発見されたとか。
朱美さんを限りなき欲望から救い出したのも愛なら、朱美さんの命を奪ったものも、また愛。
そしてその愛は、マルぼんが機密道具で生み出した、人工的な愛。
ひょっとしたら、マルぼんは余計なことをしてしまったのでしょうか。
ヒロシやママさんが帰ってきたとき、マルぼんはどのような顔をして2人に会えばいいのでしょうか。
マルぼんは2人が帰ってくるまでの間、5分に1キロというハイスピードで体重が落ちるくらい思い悩みました。
しかし時は無情に流れ、2人はまもなく帰宅。マルぼんは勇気を振り絞し、包み隠さずに全てを2人に伝えました。
ママさん「マジで!? やたー! 遺産ゲットー! 」
ヒロシ「おかあさん! 僕、新しいスマホほすぃ」
2人とも下衆野郎だったみたいで、マルぼん一安心。
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