配慮
クラス一の秀才と誉れ高い槍杉くんの魅力に、ルナちゃんはもう、ルナちゃんはもう…!
ルナちゃん「槍杉さんはマラソン大会で一位だったんですって?」
槍杉「まあねー。ヒロシくんはマラソン大会が嫌で家のトイレに立てこもるという騒動をおこしたんだけ?」
ヒロシ「……」
ルナちゃん「槍杉さんは小学生全国模試で一位だったんですって?」
槍杉「まあねー。ヒロシくんは全国模試が嫌で学校を爆破するという書き込みをインターネットの掲示板に書き込むという騒動をおこしたんだっけ?」
ヒロシ「……」
槍杉「毎日がスリリングで、おもしろそうな人生だよね」
ヒロシ「畜生ー!!」
ヒロシ「てなことがあったんだ。ルナちゃんも槍杉も、弱者にたいする配慮がなさすぎる。もう少し気を使うべきなんだ」
マルぼん「たしかいに人生いっぱいいっぱいのヒロシに対しては、あまりといえばあんまりな仕打ちだねえ」
ヒロシ「そこで機密道具なんだけど」
マルぼん「いいのがあるよん。『灰慮』。この灰を浴びせた相手は、どんなことでも配慮してくれるようになる」
ヒロシ「いいねえ。ではさっそく。それ」
マルぼん「って、マルぼんが最初の標的ですか。ゲホゲホゲホー!」
ヒロシ「どう?」
マルぼん「ごめん…」
ヒロシ「え? あ、マルぼん! 壁に己の顔をぶつけまくってなにしているの! 血だらけだよ!」
マルぼん「ヒロシは、古代ローマあたりでは存在しているだけで処刑されそうな不細工なのに、マルぼんはこんなに美しい。マルぼんの存在は、ヒロシの苦悩なんてまるで無視した罪なもの。美しさは罪! 微笑さえ罪! ごめんね、ごめんねヒロシくん。不細工な君のことを考えずに美しく存在してごめんね、今すぐ死にますー!」
ヒロシ「ああー! 僕の秘蔵の青酸カリを飲むなー! のーむーなー!」
マルぼん「生きていてごめん…ごめんね、ヒロシくうん」
ヒロシ「『灰慮』の効果は絶大のようだね。さっそく知人友人の皆さんに浴びせてみよう」
ナウマン象「箸より重いものを持った瞬間、意識不明の重体に陥るおまえのことを配慮せず、いつも暴力ばかりふるってホントごめん。俺、おまえを配慮して出家して、これからは霞を食っていきていくよ…」
ヒロシ「ナウマン象が仏門に!こいつはいいや。よし、いっそのこと高台から灰をばら撒いて、微笑町を、みんなが僕に配慮するやさしさに満ち溢れた町に改造してしまおう!」
ヒロシは学校の裏山に登り、町全貌を見渡せる崖っぷちに立ちました。
ヒロシ「よし。さっそく灰をばら撒こう。そーれ。町のみんなよ、僕に配慮しろ。僕にやさしくなれ。そーれ。って、うわ、強風が…! あ、あ、あああ…うわーーーーーっ」
警官「オタクのヒロシちゃんが夕べから帰ってきてないという通報があったのですが」
ママさん「結構です。帰ってください」
警官「帰れといわれましても…お子さんが行方不明なんですよ?」
ママさん「近所の人がうるさいんです。連中、家の近くにパトカーが止まっているだけで『あそこの家は人殺しをだした』とか噂するんですよ…おねがいですから、そこらへんの事情をくんで配慮してください。ヒロシはそのうち、帰ってきますから…」
ヒロシに一番配慮していたのは、ママさんでした。
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