先代の無念は晴らす

金歯「弟の信勝を謀殺して、つい金歯コンツェルンの跡目をゲットしたでおじゃるぞ!」



ナウマン象「俺は全国のガキ大将を討ち取って、頂点に立ったぞ」



大脳「有り余る知識で生み出した美少女アンドロイドにあれこれされる毎日でヤンス」



ルナちゃん「サッサバッサバー師(ギュルペペ教団では法主につぐ地位。自宅をギュルペペ教の教会にする資格を与えられる)に昇格したわ。これで新でも極楽なのー」



ヒロシ「……」



金歯「ヒロシ、うぬは?」



ヒロシ「ぼ、僕は……アイドルの今居まいから告白されたよ」



ナウマン象「へえ。いつごろ、どうやって」



ヒロシ「き、昨日の深夜に。ラジオの砂嵐を聞いていたら、電波に乗せて『好きです。愛しています』って…本当。本当だよ!?」



金歯「みんな、妄想しか人生のよりどころがないやつは放置して、朕の家で

特別な存在限定パーティーでもするでおじゃるよ」



ルナちゃん「賛成賛成!」





ヒロシ「以上のようなことがあったんだよ! くやしくて発狂しそうだから、僕をいろんな意味で助けておくれよ、マルぼん! 僕を特別な存在にしておくれよ!」



マルぼん「いいけどさ、アイドルの話は冗談だよね」



ヒロシ「は? まぎれもない真実だよ。さっきも、テレビのCMとCMの合間の、常人では捉えることができないほど一瞬に『ヒロシが好きです』というメッセージが」



 すでに特別な存在のヒロシですが、マルぼんはたすけてあげることに決めました。



マルぼん「で、チミはどんな特別な存在になりたいのだね?」



ヒロシ「えっとえっと。伝説の勇者。それも先代から直接『チミこそ勇者』と指名されるシチュ希望」



マルぼん「というか好きだねえ、勇者。OK。こいつを使おう。『跡継着』。シャツの形の機密道具なんだけど、これに跡を継ぎたい職業を書く。で、着る。そうすると、誰かからその職業を譲られる。なにを隠そう金歯も」




ヒロシ「ごたくはいいからさっさと貸してよ。よし『ファンタジーな世界の危機を幾度となく救った勇者』っと」



老人「こんにちは。大沼ヒロシさんはご在宅ですか?」



ヒロシ「ヒロシは僕ですが」



老人「おおお。実は私は勇者で(中略)というわけで、あなたは勇者です。ファンタジー世界をよろしく」



ヒロシ「まかせてくださいよ!」



老人「これで肩の荷がおりましたよ。思い返せば60年近く前。徴兵されて出向いたラバウルで、現地の人間の中にいた勇者に跡を継がされた瞬間に、私はファンタジー世界に初めて召喚されたんです。世界の危機を救ってラバウルに戻ってみると、私が召喚されて三日しかたっていなかった。でも、その三日間で私のいた部隊は全滅していたんですよ。私は敵前逃亡した愚か者として、みんなに怨まれましたよ。今でも脅迫文がくるくらいです」



 先代勇者は、話を続けました。



老人「日本に戻って結婚することになったんですが、新婚初夜にまた召喚。当然、夫婦仲がうまくいくわけないですな。その後も、子供が生まれたとき。親が死んだとき。そんなタイミングで何度も何度も召喚。あちらの世界は、ものすごい勢いで何度も何度も危機に陥るらしいんですわ。その後も何度も何度も召喚。それも人生の節目にばかり召喚。もうメチャクチャですわ。でも、そんな勇者人生もおしまい。ようやく静かな人生をおくれます。ヒロシさん、大変ですけど、がんばってくださいね」



 先代勇者が話し終えたとき、ヒロシの姿は消えていました。今頃、ファンタジーな世界を救う冒険の旅をしているでしょう。めでたしめでたし。

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