ルナちゃんが雑誌を見つめたまま、半日ほどまばたきすらしません。異常に思ったマルぼんとヒロシは意を決して話しかけてみました。



 ルナちゃんは無言のまま、見つめている雑誌を指差しました。



ヒロシ「えっとなになに? 『1年間の間、毎月自宅に花束が届くサービス』だって」



マルぼん「別に抽選とかが必要なわけでなし、自分で申し込んでみればいいんじゃないの?」



ルナちゃん「来るべき災厄を乗り切るためには、全財産を尊師に差し出して燻製にしてもらわねばならないから、余計なことにお金は使えないの。でも、あこがれるわ。毎月、きれいな花束が家に届く生活」



 ため息をつきながら去っていくルナちゃん。



ヒロシ「よし、僕たちが」



マルぼん「ルナちゃんの夢をかなえてやろう!」



 マルぼんは『花寄せフェロモン液』という機密道具を用意しました。この液を塗った場所には、種類を問わず、花がひとりでに集まってくるようになるのです。この液をルナちゃんの家の玄関先にでも塗れば、毎月どころか毎日のごとく、きれいな花がたくさん届くわけです。



 深夜、マルぼんとヒロシは『花寄せフェロモン液』を持って、ルナちゃん宅へ。



マルぼん「あ、あそこ。監視カメラがあるよ」



ヒロシ「ルナちゃんの家は、教団の微笑町支部だから、不法侵入者防止のための過剰な設備があると聞く。あれはその一環だね」



ルナちゃん「侵入者死すべしっ」



ヒロシ「ルナちゃん、その拳銃…」



 銃声が響きました。



 それから1年がたちました。ヒロシの死に場所となったルナちゃんの自宅前には、毎月、花束とワンカップ大関(ヒロシの好きだったもの)が供えられています。どこの誰かはわかりませんが、生前のヒロシが懇意にしていた人が供えてくれているようです。



 マルぼんは一度、ルナちゃん宅前で喪服の女性を見かけたのですが、彼女が花の送り主なのかはわかりません。



 ただ、ヒロシの死に場所となったルナちゃんの自宅前に、毎月花束が届くのは確かです。マルぼんは、『花寄せフェロモン液』の効果は絶大だと思いました。

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