徹底的に手足

 微笑町では悪い風邪が大流行しています。だというのに、ヒロシといえば「主役の僕が死ぬかよ!」と、外から帰ってきても手すら洗いません。



 そこでマルぼんは、機密道具『手を洗王』を用意しました。




『手を洗王』は、パーに広げた両手を高々とあげている愛らしい少女の人形なのです。スイッチを押すと、これまたかわいらしい声で『手を洗おー手を洗おー』と叫び続けます。叫び続けることで、手を洗うことを頑なに拒否する者の心を、いつか必ず変えることができる道具なのです!



『手を洗王』ならば、きっとヒロシを洗脳…改心させることができるでしょう。



 マルぼんは、眠っているヒロシの枕元に『手を洗王』をセットしました。



ヒロシ「うーんむにゃむにゃ」



手を洗王「手を洗おー手を洗おー」



ヒロシ「うーんむにゃむにゃ」



手を洗王「手を洗おー手を洗おー」



ヒロシ「うーんむにゃむにゃ」



手を洗王「手を洗おー手を洗おー」



ヒロシ「うーんむにゃむにゃ」



手を洗王「手を洗おー手を洗おー」



ヒロシ「うーんむにゃむにゃ」



手を洗王「手を洗おー手を洗おー」



ヒロシ「うーんむにゃむにゃ」



手を洗王「手を洗おー手を洗おー」



ヒロシ「うーんむにゃむにゃ」



手を洗王「手を洗おー手を洗おー」



ヒロシ「うーんむにゃむにゃ」



手を洗王「手を洗おー手を洗おー」



ヒロシ「うーんむにゃむにゃ」



 8時間後、ヒロシの表情がこわばってきました。洗脳…ではなくて改心していることでしょう。



ヒロシ「…」



 ようやく目覚めたヒロシ。枕元にある『手を洗王』を見て



ヒロシ「この悪魔の人形め!」




『手を洗王』に一撃を加えてしまったのです! ぐしゃ、っと潰れて肉塊と化す『手を洗王』。「おかあさーん!!」という断末魔の声が、マルぼんの耳から離れません。『手を洗王』は人形ですが、人間とおんなじ素材でできていて、内蔵もあれば血も流れているのです。恋もすれば、友達もいる。飯も食えば、アレもして、呼吸だってしているし、戸籍もあるし、家族もいるのです。生活があるのです。夢だってあるのです。それをヒロシときたら!!



ヒロシ「あ…血が」



『手を洗王』の血で真っ赤に染まった己の手をみて、洗面所に向かうヒロシ。水道で、ジャブジャブと手を洗いはじめるヒロシ。



ヒロシ「とれない…血が取れない!」



 血は、とっくに取れています。それでもヒロシは、「血が取れない」「血が取れない」と手を洗い続けていました。ジャブジャブと。洗い続けていました。ジャブジャブ。ジャブジャブ。マルぼんは『手を洗王』の効果は絶大だと思いました。

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