AGE18

 神の奇跡か仏の慈悲か、ヒロシもついに18歳になりました。おめでとう、ヒロシ! これで、「美女とうっふんあっはんなことをしてしまう18禁なパソコンゲーム」を白昼堂々、公衆の面前でプレイできるね! 



 ところがぎっちょんちょん、ヒロシは憂いを秘めた表情で、せつなそうな雰囲気を漂わせているのでした。



マルぼん「いったいぜんたいどうしたのさ、語ってごらんよマルぼんに」



ヒロシ「18歳になってないのに、18禁のゲームをやる。許されない行為をしているという背徳感が、よりいっそうゲームをおもしろくしていたんだ。18歳になり、人目をはばかることなく18禁ゲームをできるようになったけど、その背徳感はなくなってしまった……。そう、言うなれば今の僕は翼をもがれた天使なのさ」



マルぼん「そないにたいそうなものかよ」



ヒロシ「あの頃の背徳感を取り戻したいよ、マルぼん!」



マルぼん「仕方ないな、ヒロシは。こいつを使おう」



 そう言ってマルぼんが出したのは、木像。自分の目を両手でふさいでいる猿と、口を両手でふさいでいる猿と、抱き合っている二匹の猿(片方には兄、もう片方には妹と書かれている)の木像。



マルぼん「『見ざる言わざる許されざる』の木像さ。この像からは特殊な電波が放たれていて、それを浴びたものは『やってはいけないもの』『してはいけないもの』になるの」



 買ってきた18禁パソコンゲームを像の前に置くヒロシ。すると。



ヒロシ「あ! パッケージにあった『18禁』の文字が『政府の許可なくプレイ禁止』に変化した!」



マルぼん「これでそのゲームは政府の許可なくプレイしてはいけないゲームになったよ」



ヒロシ「ほんと!? ああ、本来プレイしてはいけないゲームを隠れてこそこそやろうとしている僕は、なんと醜い人間なんだろう。ハァハァ……醜い自分……ハァハァ」



 背徳感に身を震わせるヒロシ。



マルぼん「なんて楽しそうなんだろう。しばらく1人にしておいてやるか」



 マルぼんは「まぁ使えよ」とティッシュを部屋に置き、そのまま外へでました。3時間ばかし時間を潰して部屋に戻ると、ティッシュと『見ざる聞かざる許されざる』の木像がなくなっていました。



マルぼん「おい、例の木像は!」



ヒロシ「僕の恍惚タイムの邪魔になるから、そこの空き地に捨ててきた。2時間ほど前に」



マルぼん「ばかもの! あの木像は長時間日光に当たると、電波のかわりに猛毒を放ちはじめるのだぞ! 帰宅途中、『やたらと倒れて苦しんでいる人がいるな』『やたらと「救急車を呼んで」と助けを求める人がいるな』『なんか苦しいな、鼻血とか止まらなくなってきたな』『めまいがするな。クラクラするな。クラクラとクララは似ているな。クララが立った! クララが立った!』『あ、自衛隊の特殊部隊や!』と思ってたら、こういう理由だったんか!」



ヒロシ「ぼ、僕はなんてことをしでかしてしまったのだろう!」



警官「もしもし、警察のものですが。毒の散布の件でちょっと」



ヒロシ「もうバレたー!」



マルぼん「逃げてヒロシ。逃げてー!! マルぼんがたまたま所持していたダイナマイトで自爆して、追ってを道連れにしている間に逃げてー」



ヒロシ「うわぁぁぁぁん!」



 そんなわけでヒロシは、こんなこともあろうかとマルぼんが造っておいた秘密脱出口からトンズら。とりあえずは学校の裏山に逃げ込みました。偶然見つけた洞穴に入り込み、体育座り。



ヒロシ「僕は最低だ。ミスとはいえ、多くの人の人生を狂わせ、台無しにしてしまった。マルぼんも爆発四散して、あわれな肉片と化してしまった。そんな酷いことをしたのに、僕は罪も償わず、逃げ隠れ」



ヒロシ「生きてちゃいけないんだ、僕は」



ヒロシ「でも生きている」



ヒロシ「……」



ヒロシ「…………」



ヒロシ「………………」



ヒロシ「生きてちゃいけないのに、おめおめ生きている醜い僕……ハァハァ……醜い自分……ハァハァ」



 背徳感に身を震わせるヒロシ。洞穴の中で悶えて、悶えて、悶えまくります。

 


 こうしてヒロシは、これといって特別なことをしなくても、ただ生きているだけで、いつでも背徳感を味わうことができるようになったのでした。快感にその身を打ち震わせることができるようになったのでした。セルフで!完。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る