ヒロイン降板! ルナちゃん最後の日

 マルぼんがヒロシと町を歩いていると、ルナちゃんが壁と睨めっこしていました。



「また無機物と会話?」なんて思って近づいてみると、ルナちゃんは某政党の宣伝ポスターに、押しピンを刺しまくっているのです。それはもう鬼のように。



ルナちゃん「この政党、政教分離に批判的なのよ」



 政教分離とは切っても切れない関係の某宗教の信徒であるルナちゃんにとって、某政党は憎んでも憎みきれない敵なのでしょう。



 まぁ、ルナちゃんの怪行動は別に特別なことではありませんから、マルぼんは無視して行こうと思ったんですが、ヒロシが突然キれました。



ヒロシ「選挙ポスターを凌辱するなんて、なんて女だ!」



 そう叫ぶと、ヒロシはルナちゃんに殴りかかりました。その姿は。「働いて」と涙ながらに訴えてきた年老いた母に容赦なく殴りかかる30代のひきこもり男性のように見えたと、のちにマルぼんは述懐しております。



ヒロシ「選挙は……国の代表を決めるかけがえのないものなんだ……! それを邪魔するなんて……この毒婦! こうしてやる! こうしてやるー!」



 選挙というものに並々ならぬ感情を抱いている様子のヒロシ。そういえば昔、選挙に行かないつもりだったママさんに灯油をかけライター片手に「選挙へ行け!」と迫った、なんて騒動を巻き起こしていましたっけ。



ヒロシ「こんな毒婦……僕はヒロインなんて思いたくない。マルぼん! 新しいヒロイン出して!」



 ルナちゃんに失望し「新ヒロインが欲しい! できれば幼なじみとか!」とのたまうヒロシ。「見ず知らずの女の子を強制的にヒロインにしちゃう♪」という機密道具はあるのですが、悲しいくらいに法律スレスレなので、マルぼんはできるだけ使いたくはありません。



「ヒロインというのは自分の力で作るからヒロインなのではないか!? 混沌とした21世紀、若者はいかにして生きていくべきか!?」と、マルぼんが熱心に説得すると、ヒロシは納得。



「隣のクラスの白百合美咲さん(超美少女)に想いをブチまけて、ヒロインになってもらうんだー!」と、ヒロシは飛び出していきました。自立してくれたようで、マルぼん一安心。



 ところが一時間後。ヒロシは泣きながら帰ってきました。



「白百合美咲さん(超美少女)と話をしたけど、なぜか選択肢がでてこないんだ! パソコンのなかの女の子と会話するときは選択肢がでるのに! だから現実は嫌いなんだ! バーチャル最高!」と荒れるヒロシ。



 これだから21世紀のゲームキッズは!



 ルナちゃんに失望し、隣のクラスの白百合美咲さん(超美少女)に乗り換える決意をしたヒロシでしたが「選択肢がない! 会話ができない! 幼なじみが朝迎えに来ない! メガネの女委員長がクラスにいない!」とゴネて、マルぼんを困らせます。



ヒロシ「女の子と会話する時選択肢がでる(最善の選択をすれば好感度アップ)出してー!」



 ダメ人間はなにをしてもダメ人間ということで、マルぼんは「会話の際に選択肢が出てきて、最善の選択をすれば人間関係がスムーズになる機密道具」をだしてやることにしました。



 複雑な機密道具なので、開頭手術で脳に直接埋め込む必要があり、術後は感情に起伏が見られなくなったり想像力が欠如したりするという副作用があるのですが、仕方ありません。



 マルぼんは、事情を知っていやがるヒロシをクロロホルムで眠らせて、早速手術を開始しました。



 実はマルぼん、通信教育で取得した「脳弄り」の資格を持っているのです。



 手術完了。ヒロシの脳内には、「会話の際に選択肢が出てきて、最善の選択をすれば人間関係がスムーズになる機密道具」がこれといった副作用もなく、無事埋め込まれたのでした。



マルぼん「今の気分をどう?」



ヒロシ「あ!? 視覚に『A・最高だよ!?最高だよマルぼん!』『B・う~ん。普通?』『C・死ね!死んでしまえマルぼん!』って三つの選択肢が!?」



マルぼん「その選択肢で最善のものを選んだら、相手に良い印象をあたえるのさ。さぁ、選んでみ?」



ヒロシ「じゃあ、C! Cの『死ね!死んでしまえマルぼん!』」



マルぼん「てめえ! ぶち殺してやるー!」



ヒロシ「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ごめんよー!?」



マルぼん「あやまれ! 心を込めてあやまれー!」



ヒロシ「B! Bの『死んでも謝りません。殺せ! でないと、オマエは新しい敵を作ることになるー!』!」



マルぼん「むきーっ!」



ヒロシ「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 ヒロシに道具を利用した暴行をくわえながら、マルぼんは確信しました。



 ヒロシは絶望的に人の心が読めない人間だったのです。



ヒロシ「ゲームならうまくいったんだ! ゲームならー!」



「会話の際に選択肢が出てきて、最善の選択をすれば人間関係がスムーズになる機密道具」を脳内に埋め込みながらも、人の気持ちなんて察する事ができないために使いこなせないヒロシの21世紀らしい絶叫が響きました。



 マルぼんもそれなりに特訓してやったんですが、ヒロシってば、ダイエットに成功した人を見て「病気? 多分、胃だね!」、太った人を見て「インシュリン打った?」、ハムスターをかわいがる無垢な子供を見て「3年で死ぬよ。死骸は河にながす?」、募金活動に励む子供たちを見て「その金はどこぞのタレントの家具を買うお金に使われるよ?」と、狂った返答しかできないのです。



ヒロシ「そうだ……攻略本。攻略本だしてよ! 僕の人生の攻略本ー!」



 道具を脳内から外す手術を終えて、マルぼんが一服していると、ヒロシがこんなことを言い出しました。無茶です。無茶な話です。人生の攻略本なんてあったら、マルぼんが未来を変えるためにこんな世紀に来やしません。



ヒロシ「あるかもしれないじゃん! 人生なんてゲームみたいなものだろ!?ミスしても、リセットすればセーブしたところからやりなおせるだろ!? 探すくらいの努力はしてよー!」



 ヒロシにせかされたマルぼんは、仕方なく未来百貨店の通販カタログを見てみました。そしたら、ありました。普通に。人生の攻略本。ヒロシの人生の攻略本。



『常にマルチエンディングの人生。どこでどんな選択をすればどんなエンディング(死に方)を迎えるのか、完全網羅!

これで快適な人生がおくれること間違いなし!』



「ヒロシの人生攻略本」に付いていた帯には、こんな売り文句が書いていました。



ヒロシ「いいから! 白百合美咲さんとお付き合いする方法を調べてよう!」



 ヒロシにせかされたマルぼんは、さっそく攻略本をめくりました。



マルぼん「えっと。白百合美咲さんとお付き合いする方法……あった。『警察の不祥事を延々吹き込んだテープを白百合美咲さんの家に聞こえるようにしよう。すると、白百合美咲さんのお父さん・白百合権蔵さんが寝不足になり、翌朝遅刻しそうになるぞ。遅刻しそうになった白百合権蔵さんはいそいで車に乗り急発進するので、これにわざとぶつかろう。白百合権蔵さんは金でカタをつけようとするが、これにのってはいけないぞ。事故と買収の件で白百合権蔵さんを脅迫し、色々と要求してみよう。少しづつ要求するもののレベルを上げていき、最終的に白百合美咲さんを要求すればOK!いきなり白百合美咲さんを要求したら、殺されてエンディングになってしまうから注意だ』だって」



 説明を聞くと、ヒロシは「やたー!」と、すごい勢いで外へと飛び出していってしまったので一人になったマルぼんは、攻略本を色々調べてみることにしました。



 攻略本の売り文句通り、ヒロシが迎えるであろう様々なエンディング(死に方)が完全網羅されており、かなり驚かされました。『そのうち人類に償っても償いきれない罪を犯す』というのも、ヒロシの可能性のひとつにすぎなかったのです。



 ヒロシには様々な可能性があるようです。



『中東でゲリラとして活躍後、帰国。大阪のホテルに潜伏にしているところを逮捕され、獄中で首を吊って自殺』『同人誌販売ショップで自分の好きなアニメを冒涜した人に喧嘩を売るも、返り討ちにあって死亡。同人誌に囲まれて逝ったので笑顔』『自室の机の前に座っていたら、ちょうどタイムマシンと化した机の中から未来の世界の猫耳ロボットがやってきて勢いよく引き出しを開け、その引き出しが後頭部にあたって、死亡』『恋が実ってうれ死はずか死』他……



 これからなにをやっても無駄っぽいので、マルぼんは適当に頑張ることにしました。

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