バイオ未亡人ジャスティス渚の巻

漫画家「ふふふ。いよいよ僕の描いた漫画『バイオ未亡人ジャスティス渚』のアニメが放送開始だぞ」



アシスタント「楽しみですね。実に楽しみですね。いやー楽しみだ。マジで楽しみ。狂おしいほど楽しみ。泣けちゃうほど楽しみ。楽しみ。楽しみ。あー楽しみ。楽しみだー。ガチで楽しみですなぁ。うへへへ。」



漫画家「うふふふ。うれしいこといってくれるじゃないの」



 「バイオ未亡人ジャスティス渚」は、「別冊週刊少年マグナム増刊本当にあったかもしれない空恐ろしい話かわいい子猫さん特集号」にて好評連載中の漫画。ひょんなことからバイオ未亡人と化したヒロイン・渚が、襲い来る魔界からの侵略者・マシーン銃器をちぎっては投げちぎっては投げする内容が人気です。作者の前作である介護老人施設で働く女の子たちのゆるめな毎日を描いた4コマ「フワっとへるにあ!」と同じ世界観であり、このときの渚は主人公たちの働いている施設に入所している義父が虐待されているのではないかと疑い、施設に監視カメラを仕掛ける人妻サイボーグとして登場し、そのキャラクターの濃さから、一緒に登場した弁護士や根来忍者十人衆、監視カメラを渚に手渡した反政府ゲリラ等と共にレギュラー化。「フワっとへるにあ!」は、某宗教の機関誌「あした」に連載されていたため一般の人にはなじみがなく、単行本も信者向けに小部数が配布されただけで、「バイオ未亡人ジャスティス渚」が人気になってからその存在が知られるようになり、現在ではそれなりの高値で取引されています。






           目を背けるな 地球に 悪の手が伸びる




           やつらは悪魔だ 畜生だ




           破壊だけが生きがいの 鬼畜なマシーン銃器ども




           手をぬくな こまねくな バイオ未亡人




           バイオモーター発動させて いざ変身だ 攻撃だ




           バイオパンチは日本を守り パイオキックは世界を守る




           バイオチョップで地球をまもり 




           バイオ頭突きで銀河を守れ




           バイオ バイオ バイオな未亡人




           ジャスティス ジャスティス ジャスティス渚 正義の渚





漫画家「うわー。主題歌の作詞も完了したぞ~」 



 しかしこの漫画家の幸せも長くは続かなかったのです。『バイオ未亡人ジャスティス渚』のアニメが放送されはじめて一週間後。子供たちの将来を心配してあれこれ活動している、まれにみる善意の人たちに、漫画家さんは地元の公民館に呼び出されたのです。



まれにみる善意の人「どういうつもりでこんな漫画を描いたんだ!」



漫画家「そ、それは」



まれにみる善意の人「とんでもなく卑猥な内容。こんなものがアニメ化されたら、それを見た子供たちに悪影響がでるとは思わなかったのか! この天魔外道!」



漫画家「えっと、青少年をダメにするつもりで、その、描いたわけではないの、です」



まれにみる善意の人「無自覚で!? こんなひどい内容を!? 無自覚で!? はい、いただきました! サイコいただきました! 意図的にやるよりなおさらたちが悪い! ひっど! 無自覚ひっど! 子供たちに謝れやカス! クズ! 生きる価値のないろくでなし! 」



まれにみる善意の人の部下「リーダー! 活動が実を結びm『バイオ未亡人ジャステイス渚』のアニメの放送中止が決定しました!」



まれにみる善意の人「よし! では、『バイオ未亡人ジャスティス渚』のコミックスを集められる限り集めて、近くの学校の校庭にもっていって灯油でもぶっかけて火を放ちなさい。んで、その光景をこの人間のクズ漫画家にみせつけろ!」



まれにみる善意の人の部下「え、そこまでやるのですか!?」



まれにみる善意の人「そこまでやらないとダメなの! 子供の教育によくないものや、みると嫌な気分になるようなものはとことんつぶすのだ!」



まれにみる善意の人の部下「はい! トコトンツブシマス!」



まれにみる善意の人「何の容赦もなく、何の例外もなく、何の躊躇もなくつぶす!」



まれにみる善意の人の部下「あい! 何の容赦もなく、何の例外もなく、何の躊躇もなくつぶします!」



 てなことがあって、自分のコミックスが燃えるところを見せられた漫画家先生は、その短い作家人生に自らピリオドをうったのでした。





 そして。





まれにみる善意の人の部下「リーダーの行動に感銘を受けた人たちが、あちこちで活動を活発化させているようですぞ」



まれにみる善意の人「ははははは。そういう人たちには『まれにみる善意の人チルドレン』を名乗る許可をだしてあげなさい。みな、われわれの同志なのですから」



まれにみる善意の人の部下「了解しました!」



まれにみる善意の人「うふふ。そろそろ国政にうってでようかしら。おい! 協賛してくれている団体に連絡して、適当な数の少年少女を集めろ。私を囲んで楽しそうにしている写真を撮るんだ。選挙活動には子供にも応援されているアピールが必須だからな」



まれにみる善意の人の部下「『未来からやってきた生物と同居している少年少女連合』が協力してくれることになりました!」



 そんなわけで、某所で行われた決起集会の場に、『未来からやってきた生物と同居している少年少女連合』の少年少女が大量に集められたのですが。なぜでしょう。まれにみる善意の人をみるなり全員嘔吐。集会の場は、よほどのマニアしか喜ばない修羅場と化したのでありました。



まれにみる善意の人「少年、なぜ吐くの!? 少女、なぜ吐くの!?」



ヒロシ「オエー!! ころした……マルぼんを、殺した!! この人がー!」



まれにみる善意の人「はぁ!?」



まれにみる善意の人の部下「謎が解けましたぞ! こちらの映像を!!」



 部下が用意した映像。凶器を持った大人たちが、未来からやってきた生物を次々と虐殺している内容でした。未来からやってきた生物と同居している子供が泣きながらそれを止めようとしますが、そんなものは無視して、大人たちの息の根止めまくりショーは続きます。そんな映像が何種類も何種類もあるのです。さらに。映っている子供の大半が、今この場で嘔吐している子供ばかりではありませんか。



まれにみる善意の人の部下「彼らは『未来から来た不思議な道具を持つ生き物は子供たちに楽することを覚えさせて堕落させる存在なのでとにかく排除する会』のメンバー。彼らは自分たちの理念を信じ、それを実行に移したようですね」



まれにみる善意の人「そんなことはどうでもいい。なんでこいつら、そろいもそろって、私の顔が印刷されたハチマキやら法被やらを着ているの!? 私の顔のお面を被っているやつもいるし。こんな姿で虐殺とかしたから、私の顔がガキどものトラウマになってるやん!」



まれにみる善意の人の部下「『未来から来た不思議な道具を持つ生き物は子供たちに楽することを覚えさせて堕落させる存在なのでとにかく排除する会』は、『まれにみる善意の人チルドレン』のようです。尊敬するリーダーになったつもりでがんばるべく、リーダーのグッズで身を固めているとのことです」



まれにみる善意の人「バカっ。私に協力的な『未来からやってきた生物と同居している少年少女連合』を攻撃するなんて。なにが子供のためにならないのかを自分たちで勝手に決めるなんて馬鹿な話! 決めるのは私なんだぞ! 」



まれにみる善意の人の部下「過ぎたことは仕方がないです。リーダー、行きましょう」



まれにみる善意の人「行くって、どこへだよ!」



まれにみる善意の人の部下「近くの小学校の校庭ですよ」



 幸いにも、灯油はまだたくさん残っていました。



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