腹を割って話そう!

テレビをつけると演芸番組がやっていて、女腹話術師が芸を披露していました。



女腹話術師『キクオちゃん、今の気分はどう?』



人形のキクオ『初めての舞台で頭が真っ白といいましょうか……』



女腹話術師『キクオちゃん、大きい声で。目を見て!』



ヒロシ「うへー上手なもんだなー。こういう芸、憧れるよ~」



 さっそく感化されたヒロシは、10年くらい前にUFOキャッチャーで取ってきたソニック・ザ・ヘッジホッグのぬいぐるみ(目とか取れてボロボロ)を使い、腹話術の練習を始めたのですが、そこは素人の悲しいところで、カケラ程度も上達しないのでした。口を動かしているのとか、嘘みたいにはっきりわかるのです。



ヒロシ「ううう。実はナウマン象たちに『今、僕は腹話術の練習をしているんだ。あと少ししたら神の如き腹話術を披露できると思うよ。え? できなかったらどうするかって? そ、そうだね。生まれたままの姿になって飢えた狼の群れにこの身を晒そうかな』とか言ってしまったんだ! どうしよう!」



マルぼん「ここに未来の世界の腹話術用の人形があるから、これを使えばいいよ。この人形は持ち主が思ったことをそのまましゃべってくれるんだ。思うだけなら口を動かさないで済むだろう」



 ヒロシはさっそく腹話術人形を抱えました。すると



人形『人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり』



ヒロシ「本当だ! 僕が今思ったことをしゃべったよ、この人形!」



マルぼん「これなら大丈夫だね。めでたしめでたし。じゃあ、レンタル料の3万円よこせ」



ヒロシ「銭いるのん!?」



マルぼん「ボランティアじゃねえんだよ! 銭ねえなら、親の財布からでもとってきなYO!」



ヒロシ「ううう。仕方がない」



 ママさんの部屋に忍び込むヒロシ。財布を盗もうとすると、そこに運悪くママさんが。




ママさん「なにをしているの、ヒロくん」



ヒロシ「いや、これは、その」



ママさん「バカ息子! バカ息子!」



 泣きながらヒロシを叩くママさん。



ヒロシ「やめ、やめておくれよ、!」



 ヒロシ、思わずママさんを突き飛ばしてしまいます。ママさん、吹っ飛ばされて、タンスに頭をぶつけて、動かなく……。数時間後、救急車とパトカーのサイレンの音が微笑町に響きました。病院に運ばれたママさんは意識が回復しませんでした


 

所かわって微笑警察署の取調べ室。刑事がヒロシを取り調べております。



刑事「きみがお母さんを突き飛ばしたんだな」



ヒロシ「……」



刑事「黙ってないではっきり言ったらどうだ」



ヒロシ(母さんが『息子に突き飛ばされた』と言ったらおしまいだ! 少年院行きだ!ううう、おしまいだ。おしまいだ。僕はもう、おしまいだ。誰か、僕に優位になる発言をしてくれないものか)



刑事「今、病院から連絡が入ったぞ。お母さん、意識を取り戻したそうだ」



ヒロシ(おわった!)



刑事「お母さんな、事情を話すと『私、転んだだけです。転んだ拍子に頭をぶつけただけなんです。ヒロシに突き飛ばされただなんて、とんでもない……』と言ったそうだ」



ヒロシ「……」



刑事「泣きながら『あんなやさしい子が、突き飛ばすだなんてするわけありません。私がドジなだけで……だからヒロシを家に帰してください』と言ったそうだ。」



ヒロシ「う……」



刑事「ヒロシくん。君が、やったんだね?」



  その話を聞くと、ヒロシは涙をポロポロ流しながら、消えそうなほどかすれた声で「僕が母さんを突き飛ばしました」と言いました。



  マルぼんは、ヒロシの思ったことをママさんがしゃべってくれるようにした『未来の世界の腹話術人形』の効果は絶大だと思い……いや、人形の効果などではありません。そんなものはなくても、ヒロシとママさんの心は通じあっていたのです。子を想う母の心は、どんな便利な道具よりも、絶大な効果を持っている。マルぼんはそう思いました。




(微笑町では親に逆らった罪は『たとえ総帥であっても免れることは出来ない』と言われるほど重いので、ヒロシはきちんと極刑に処せられました。ご安心ください)

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