プレゼント作戦

ヒロシ「あ!」



マルぼん「どうした、ヒロシ」



ヒロシ「今、クラスメイトのギャルゲ田くんの家を盗聴していたんだけどさ……」



マルぼん「なんでクラスメイトのギャルゲ田くんの家を盗聴しなければならない状況に陥ったの? 君の人生になにがあったの?」



ヒロシ「ギャルゲ田くんは恋のライバルなんだよ。彼もまた、ルナちゃんを狙っているんだ。『将を射んとせばまず馬を射よ』の精神で、ルナちゃんンとこの教団に家族で入信したり、年端もいかぬ己の妹を教祖に差し出したり、教祖の言うままにお金を燻製にしたりと、恐ろしい勢いでルナちゃんを落としにかかっているんだよ。恋のライバルの動向を把握しておくための盗聴なんだけど、なにかおかしいかね? おかしくないだろ? だって、そこに愛があるんだから!」



マルぼん「いや、別に。至極まっとうだと思いますよ。ええ、思いますとも。……話の続きを聞こうか」



ヒロシ「ギャルゲ田くんの家を盗聴しているときに、嫌な事実を知ってしまったんだよ」



マルぼん「その事実とは?」



ヒロシ「ルナちゃんへの誕生日プレゼントが、僕が用意しているものと被ったんだ! 同じようなプレゼントを用意してやがるんだ、ギャルゲ田くんの野郎!」



マルぼん「今から別のプレゼント用意したらどうよ?」



ヒロシ「自慢じゃないけど、僕の用意したプレゼントはこの世にふたつとない逸品。ルナちゃんの誕生日は明日だし、この短期間で今以上に素晴らしいものを用意するのは不可能だと思うんだ」



マルぼん「『ふたつとない逸品』がなんで被るんだよ、このタコ!」



ヒロシ「それが世の不思議だよ。地球にはまだ謎がたくさんあるね」



マルぼん「で、どうするの。プレゼントが被ったら、恐ろしい勢いで落としにかかっている分、あちらが有利なんでないかい」



ヒロシ「そうなんだよ。なんとかプレゼントが被っても、僕のほうが好感度アップする方法ないかしら。というか、そういう道具だせ」



マルぼん「仕方ないなぁ、ヒロシくんは。『未来リボンと包装紙』。このリボンと包装紙でラッピングされたものは、受け取った人にとてつもない喜びと感動を与えるんだ。たとえプレゼントが『猟奇殺人入門』とかそんなものでも、こいつらでラッピングされていたら、受け取った人は『いっぱいのかけそば』を読んだのと同じくらいの感動を覚えるだろう」



ヒロシ「『いっぱいのかけそば』の作者って、たしか……まぁ、いいや。とにかくいい感じの道具だね。あ、リボンのほうだけくれないかな。プレゼントが大きすぎて、包装紙では包めなさそうだから」



マルぼん「あいよ。ところでリボンのきちんとした結び方は知ってる? ここにラッピングの達人としてテレビや雑誌などで有名な、ラッピング五郎の著作があるから参考にしなよ」



ヒロシ「こういうのは自己流でやるのがいいんだ。気持ちだけでけっこう」



マルぼん「まぁ、君がそういうなら」



 マルぼん、ふと不安になりました。ヒロシの不器用さは筋金入りです。きっとメチャクチャな結び方をしてしまうに違いありません。



マルぼん(あ、でも大丈夫か。『未来リボン』にはたしか、プレゼントとなるものに、自動的に美しく結びつく機能があったはず。安心安心)



マルぼん「あ、そろそろ仕事の時間だ。ちょっと行ってくるわ」



ヒロシ「そうか、今日は夜勤の日だったね」



 そんなわけでマルぼんは仕事にでかけました。翌朝帰宅すると、ヒロシは息を引き取っていました。全裸で。全身にリボンを巻きつけて。



マルぼん「この仏さん、首にリボンを巻きつけている。窒息したんだ。しかしいったい、なぜ」



 マルぼん、仏さんの近くになにか落ちているのを発見。ヒロシがルナちゃんに宛てて書いたバースデーカードのようです。なんぞヒントはないかと中を確認してみると



『ハッピーバースデー! ルナちゃん! また1つ大人の女性に近づきましたね! そんなルナちゃんにプレゼントがあります。それは……僕です! 大沼ヒロシです! 生まれたままの姿の僕を、どうか末永く可愛がってね!』



マルぼん「こんな反吐がでるような発想をするから……」



 そんなわけで、ヒロシは短い生涯を終えました。この物語はこれでおしまいです。最後に、今回の事件にかかわった人々のその後について語り、皆様とお別れしたいと思います。



 マルぼんは、今回の件が原因で、未来の世界に帰った際に、業務上過失致死の疑いで逮捕され、処刑されました。未来の世界では犯罪が多発しているので、どんな罪でも刑は極刑です。遺体はそこいらに放置され、朽ちていくその様は、世の無常を訴えました。



 ヒロシと同じように裸リボンの自分をプレゼントにしようとしていたギャルゲ田くんは、嫉妬した妹(血のつながりなし。兄を1人の男性として意識している)に刺され、短い生涯を終えました。妹は逮捕されましたが、今は釈放され、名を変えて社会に復帰しているということです。



 ルナちゃんは、今日も明日も明後日も信仰信仰また信仰。43歳の時に「アバダモエクボ」という徳の高い(値段も)ホーリーネームを頂戴し、改名しようするも家族の反対にあい、現在、裁判中とのことです。



 ラッピング五郎は、そのラッピング技術とオネエキャラでブレイクし、あちこちのテレビ番組に引っ張りだこになりました。ラッピングテクニックの本はバカ売れ。DVD化もされて、これもバカ売れ。ついには『包み包んでHOLD ON ME』という曲でCDデビューまで果たしました。その人気に有頂天になった五郎は、世話になったラッピングの師匠に暴言を吐くなど、絵に描いたような天狗になったのですが、所詮は一過性のブームに過ぎず、次々と出現する新たなオネエキャラに対抗できるハズもなく、瞬く間にテレビ界から忘れさられ、過去の人となってしまいました。テレビに出る前に講師として働いていたラッピング教室に戻りましたが、テレビ出演に夢中になり本業を疎かにしていた彼に、同僚たちは冷たく、結局はそれが原因で退職。一念発起して自分のラッピング教室を立ち上げましたが、生徒である人妻とねんごろな仲になったのが週刊誌にすっぱ抜かれ、「あのオネエキャラは嘘だった」ということで大バッシングスタート。同時期に大した芸能ネタもなかったことから、連日ワイドショーで取り上げられる始末。当初は100人近くいたラッピング教室の生徒は激減し、閉鎖することになりました。ところが、その話題がきっかけで、まさかの再ブレイク。ダーティーキャラとして、バラエティ番組を中心に活躍するようになったのです。元々性格の悪かった五郎は、ダーティーキャラが性に合っており、その毒舌ト-クはいつしかバラエティ番組に欠かせないものとなり、他人への悪口をテーマにした著作はラッピング関係の本よりも売り上げがよかったそうです。しかしその幸せも長くは続きませんでした。ある夏の夜。繁華街を朦朧とした状態で徘徊しているところを警察に見つかり、下腹部を露出している等、どうも様子がおかしいということで検査をされ、覚せい剤反応がでたのです。自宅を捜査され、大麻も発見されました。脱法ハーブも使用していたらしいという情報もありました。もちろん逮捕されましたが、身内に甘い芸能界の中では、某大物演歌歌手を始めとして擁護する者も多数おり、初犯ということもあり、執行猶予ということになりました。所属していた大手プロダクションの力があったのかどうかは定かではありません。当初は自粛していたテレビ出演ですが、1年後には少しずつ出演するようになっていました。それらの番組では「なぜ覚せい剤などを使ってしまったのかわからない」「迷惑をかけた人たちに誠心誠意謝りたい」と、反省している様子をみせていた五郎。芸能界における友人やファンからのメッセージをまとめた「帰ってこいよ、五郎」という本が出版されたり、夏の風物詩である有名長時間番組で、「禊」という名目で24時間マラソンのランナーを務めたりするなど、完全な復帰に向けて歩み始めた矢先、再び事件は起こりました。別件で逮捕された覚せい剤の密売人の男が「半月ほど前に、ラッピング五郎とその内縁の妻に売った」と証言し、警察が事情を聴きに行った時には、既に姿をくらませていました。これには、擁護していた芸能人たちもさすがにダンマリ。プロダクションも解雇ということになりました。テレビでは、五郎の失踪、いや、逃亡を連日取り上げました。3か月後、「関西某所で、日雇いの仕事をしながら潜伏している」との情報が寄せられ、地元警察が調べたところ、ある個室ビデオ店にて、過酷な労働と覚せい剤の副作用でボロボロになっていたラッピング五郎が発見されたそうです。連行される様子を目撃した某婦人雑誌の記者は、「とても本人とは思えないほどやつれていた」と述懐しています。マスコミ各社は、五郎の母親にインタビューするべく、彼の実家に押しかけました。五郎の母は「覚せい剤とはいえ、別に他人様を傷つけたわけではないのに。こんなに騒がれて。うちの五郎がかわいそう。五郎は真の被害者です」などと答えてしまい、息子と同じくバッシングをうけることになってしまいました。逮捕された五郎は刑務所へ。なにかと話題の多かった五郎は、囚人たちの注目の的で、かなりのいじめやいやがらせを受けたそうです。そしてその期間は、けっして短くはなかったとのこと。服役中、五郎とはバラエティで何度も共演したこともある大物歌手が、刑務所に慰問に訪れました。囚人たちの中に見知った顔があることに驚いたその歌手は、「がんばれよ。がんばってがんばって、頑張りぬいて、とにかく罪を償うんだ。そうすれば、お日様はまた、お前に微笑んでくれるさ」と五郎を励ましたそうです。出所後、なんとか覚せい剤中毒から立ち直った五郎でしたが、彼の居場所はラッピング業界にも芸能界にもありませんでした。出所を待ちわびていた母も、この世の人ではありませんでした。その後、叔父の経営する田舎のコンビニエンスストアに就職した五郎。彼の名前が表にでることは皆無となりました。しばらく後、「あの人は今」的な番組で取り上げられた時、五郎は身寄りのなかった叔父の跡を継いで、コンビニの経営者になっていました。その際、「芸能界に未練はありますか」と質問され、五郎は次のように答えています。「芸能界には未練はないですね。あるのは、ラッピング。ラッピングの世界です。いや、戻れないのはわかっています。いろいろな人に迷惑をかけてしまいましたからね。師匠にも破門されましたし。(中略)僕は色々なものを包んできたけど、最近、実は逆に包まれていたということに気づいたんです。お客さんの笑顔という包装紙でね」。この放送を観たかつての芸能人仲間が、五郎に誘いをかけました。五郎と同じような売れ方をし、そして消えていったオネエキャラの芸能人たちが、最近、再ブレイクを狙ってグループを結成していたのです。このグループに入らないかと誘われたのです。しかし五郎はこれを断りました。自分にはそんな資格はない、と。この出来事で思うことがあったのでしょうか、その年に開催された地域の夏祭で、イベントの一環として、五郎は『包み包んでHOLD ON ME』を熱唱したそうです。櫓の上で。祭囃子に包まれながら。華やかなテレビの世界にいたころとは比べものにならない、みじめな恰好でありましたが、不思議と輝いて見えたそうです。翌年、五郎の死亡が小さく報じられました。コンビニの経営がうまくいっていないことによる、心労が原因とのことでした。享年57歳。

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