教祖のサイン会


 ルナちゃんが、その人生全てを捧げている某新興宗教。今日は、その宗教の教祖様の著書「人妻と信仰」の発売日であります。教祖様は、今まで「未亡人と信仰」「濡れた喪服と信仰」「夜の客室乗務員と信仰」「桃色ナースは信仰がお好き」「快楽マンション072号室(信仰編)」「淫虐教師~夜の説法~」といった本を書いており、そのいずれもが信者の間でのみ大人気。


 発売を記念して、町内の教団施設でサイン会が開催されることになりました。本を買ってくれた人に、教祖様がサインと体が穢れを払うイニシエーションをしてくるという趣向です。マルぼんとヒロシはルナちゃんに頼まれて、そのお手伝いをすることに。


ヒロシ「ここがサイン会の会場かー」


ルナちゃん「そしてこれが尊師の新作『人妻と信仰』よ、はい、1冊どうぞ。マルちゃんもどうぞ」


マルぼん「ありがとう!(駅前のブックオフって、何時まで開いていたっけ)」


ヒロシ「うれしいな(11時までだよ)」


マルぼん「それにしても……」


 サイン会場には、大量の『人妻と信仰』が置かれていました。


マルぼん「たくさん刷ったんだね、『人妻と信仰』」


ルナちゃん「うん。全部で100,000,000冊刷ったの。自費出版だし、この施設でしか販売しないから少なめに刷ったんだけど」


ヒロシ「ああ、バカなんだね。バカしかいないんだね」


 そんなこんなで10時、サイン会スタート。17時、サイン会終了。


ルナちゃん「たいへん。思ったよりも売れなくて、余りまくってしまったわ、『人妻と信仰』。その数、99,999,998冊!」


ヒロシ「僕らにくれた分しか、はけてないじゃないか!」


ルナちゃん「こんなに余ってどうしよう! どうしよう!」


ヒロシ「マルぼん、なんぞ道具を」


マルぼん「『アマル』。これは一見、たんなるアヒルの形をしたオマルに見えるけど、周囲にあるものを余らなくする機密道具なんだ」


ルナちゃん「ほんと? なんかうそくさい」


???「ああ、ここだわここだわ」


 『アマル』を置いた瞬間、たくさんの中年女性が教団施設にやって来ました。皆さん、選挙期間中にやたら家を訪ねてきたり、選挙前に特定の市に住民票を移したり、特定の候補者に向かって集団で野次を飛ばしたりしてそうな顔をしております。


中年女性ども「今日出た本、あるだけくださいな」


ルナちゃん「ありがとうございます!」


ヒロシ「さすが機密道具。余っているものがすべてはけたね」


 ところが、その幸せは長くは続きませんでした。女性たちは教団施設の前で、買いしめた『人妻と信仰』を次々と燃やし始めたのです。


ルナちゃん「ああ、なんてことを」


中年女性たち「こんな邪教の本、世に出回る前に処分しないと!」


 中年女性たちは、1億冊近い本を一瞬で燃やし終えると、隠し持っていた武器で教団施設を壊し始めたではありませんか。


中年女性たち「邪教には滅亡を! 邪教には破滅を! 邪教には死を!」


ルナちゃん「きゃー! きゃー! やめてくだちゃーい! 誰か、誰か、たすけて!彼女らを止めて!」


周囲の人たち「……」


ルナちゃん「スルー!? 目の前で、あんな横暴が繰り広げられているのに、揃いもそろってスルー!? 」


ヒロシ「きっと、『アマル』の力だね」


ルナちゃん「?」


マルぼん「彼女らの行為は、目に余らなかったんだ」

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