第27話 最悪の出会い


『どうして屋敷に知らない人がいるのよ! ノイ婆! 私が生まれてから誰ひとりれたことないのに! 精霊様は何してたの!? わけのわからない子どもを屋敷に入れるなんて!』


「あれはあたしの客だよ」


『きゃ、客!? 冗談でしょ!? 人嫌いのノイ婆が客を招くなんてあり得ないじゃない!』


「普段から言っているじゃないか、温室の湯で湯浴みをするのはおよしと。わかったかい? これに懲りたらもうよすんだね」


『──ッ!! ノイ婆! 私にそれやめさせるためにわざと私に他人がいること教えなかったんでしょ!』


「馬鹿言うんじゃないよ、入ってくるなり自分で裸になったんじゃないか、声なんてかける暇もありゃしない。それにね、他人の気配に気付かないなんてまだまだ未熟が過ぎるんじゃないかい」


『それはっ! い、一年ぶりにノイ婆に会えるから嬉しくってつい、はしゃいじゃって……確かに気は抜いてたけど……』


 気まずい……とっくに気が付いてるなんて言えない……



「ほれ、わらべもいつまで寝たふりしてるんだい、早く起きてしゃんとしないかい」


「──!!」


「──!!」


 ば、ばれてた!?


「き、貴様! 気を失っている振りをして会話を盗み聞きするとはっ!」


「ひっ! す、すみません! 言い出す機を逃してしまって……」


「そのうえ貴様、わ、私のか、躰を──」


「は、はい! それもすみませんでした!」


「きっさまぁぁぁ!!」





 本当に今日は怒られてばかりだ……。

 レイクホールの人はみんな気性が荒いのかな……。



 僕は罵声を浴びながら、今日はとんだ厄日だ──と身を丸めて嵐が過ぎ去るのを待った。




 ◆




「大体なぜ私が貴様などと市場に買い出しに行かねばならんのだ」


「は、はは、すみません。僕が急に来てしまったから……」


 馬の上でティアさんに抱きかかえられるように座り、僕らは市場へと向かっている。


 怒り疲れてお腹を空かせたティアさんに、『夕飯は屋敷にあるもので適当に拵えてやる』とイリノイさんが言うと、『私はあれが食べたい』とティアさんがわがままを言ったので、足りない食材を買い足すこととなった。

 その買い物へはティアさんが行くと言ったのだが、結果かなりの食材が不足していたので『荷物持ちとして童を連れていけ。これから長い付き合いとなるから道中でお互いのことを知りあえ』とイリノイさんが持ちかけたのだ。

 ティアさんは不満たらたらだったけど、どうやらイリノイさんには逆らえないらしく、最終的には渋々だけど頷いていた。

 居候の僕は否と言えるはずもない。ただにこにこ笑っているだけだ。


 イリノイさんの屋敷に使用人は雇っていないようで、買い物から料理、掃除に至るまで全て自分たちで賄っているらしいことがふたりの会話からそれとなく聞き取れた。



 結局、あの後すぐに馬に乗せられたので、お互いの自己紹介もまだ済んでいない状態だ。

 馬上にはなんとなく緊迫した空気が流れているから、いきなり自己紹介じゃなくて少し話題を逸らしてみよう。

 そんなことを考えながら── 


「でも、ティアさん。市場でなにを買うんですか?」


 気まずい雰囲気を払拭しようとなんとか会話を試みる。が、


「気安く呼ぶな。お婆様から頂いた大切な名だ。私の名はミスティア。ミスティア=ハーティス。今後はミスティアと呼べ」 


 ここでもしっかり怒られてしまった。


 ん? あれ? 今の言い方……


「……だ。お婆様が作る……は……だぞ……私は…………」


 そうだ、ナッシュガルで思い出した記憶……ミレサリア王女殿下の言い方に似ていたんだ。


「……一年間……して……………のだ、…………」


 あれ、でもその前にもどこかで……どこだったかな……聞いた記憶があるような……


「……のか?」


 あ~、思い出せない……なんだかあの時もこんなもやもやが……


「聞いているのかッ! 貴様ッ!」


「うわっ! き、聞いています!」


「ほう、そうか、であれば今から市場で何を買うのか答えてみろ」


「えっ!? あ、えぇ……と……に、にく……?」


「貴様ッ! 人に質問をしておきながら話を聞いていないとはどういう了見だッ!」


 またやってしまった。

 ティアさんのお怒りはまだ当分収まりそうにない──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る