データ・クリスタル。この作品に登場する三次元(と私が妄想している)記録媒体の名前です。そして、この作品自体が超高効率に圧縮された三次元データの塊のよう。
第一レイヤーには、極限まで切れ味を増した言語データに込められた、こだわりのカメラワークと人間ドラマで彩られる、高速展開の良質な電脳ハードボイルドが待ち構えています。そんな作品が好きな方はクリック or タップをしてください。
そして我々が見ている二次元の画面の奥には、膨大な三次元情報が待ち構えています。奥に眠った隠れレイヤーには、登場人物が抱えるミクロの歴史、そして技術史、政治史、などマクロな歴史が詰まっています。それはまるで掘っても掘りつくせないほどのクリスタル鉱。
ですが、マニアあるあるの羅列を暗記しなくてはいけないのか、などという心配は要りません。その奥底に眠る原理は極めてシンプル。それは、この世界の物理法則から人まで、我々の世界と同じ性(サガ)を持っている、ということです。
この人たちはなぜこうしているのか? なぜこんな風に発展したのか?という読者の疑問には全て根拠があると言う信頼感がある作品。それにたどり着いた時の快感に膝を打ち、予想の上をいく回答に舌を巻く、そんな楽しみ方をできる人は、虜になります。
【CAUTION!!】
本作は文字列で構成された一般的な小説ではありません。
文字に映像データを圧縮させた特殊情報媒体です。
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僕は文字を読んで、風景が、人が、動きが伝わる小説が大好きです。
読んで――伝わる。
読んで――感じる。
本当に気持ち良いですよね。
伝わる事こそが、活字の真骨頂だと思います。
「文字を読んで、その場面を思い浮かべる」
これこそが、活字を読む際に得られる《最高の快感》だと思っていましたが
この作品を読んで、それは間違っていた事に気が付きました。
この感覚を遥かに上回る作品があったのです。
「電脳猟兵×クリスタルの鍵」
一文字一文字に《映像データが圧縮》されています。
マジです。
その映像データは……まるで映画です。
飛び散るガラスの煌めき
街のネオンが放つ霞むような夜の瞬き
主人公とすれ違う一般人の様子すら、仔細に描かれ―—
緊迫するシーンではスローモーションで再生されます。
マジです。ホントですw
脳内で映画の様に再生される理由は恐らく「計算されたカメラワーク」
練り上げられた全体像。
映画のように映し出す視点。
この2点が主軸となり、圧縮データが詰められた文字から再生される
映像は押井守監督が作った、近未来の公安部隊が活躍するあの作品のそれに
酷似すらします。
ただ、圧縮されたデータを再生するには
①データの解凍
②再生アプリケーション
が必要になるのも事実。
①データの解凍→少しばかり「ゆっくり」読む。焦らないで。
②再生アプリケーション→ガンアクション、諜報、潜入モノが好きな人なら
あなたの脳内には既に用意されています。ばっちりです。
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さぁ《映画》を見る準備が出来た方は、是非お進みください。
文字に圧縮された新次元映像空間へ、ようこそ。
重厚で良質なストーリーにそれぞれ個性のあるキャラクター達、壮大かつ繊細なまでに完璧に構築された世界観。
まるで海外ドラマや映画でも見ているような気分になりました。
賞金稼ぎのジャック・マーフィーはある事件をキッカケに過去の真相に触れる。
巨大な陰謀のもとに隠されていた過去の真相を知り、ジャックは復讐者として動き出します。
練りに練られたこの重厚なストーリーは、海の如きが深さが、麻薬の如き中毒性があり引き込まれます。行き当たりばったりの構成ではこの領域はおろか足元に立つ。いや足跡を辿ることすら出来ないでしょう。少しずつ見え隠れする『謎』に心を掴まれ、読む手が止まりません。
そしてその魅力を存分に発揮してくれるのが、キャラクター達。
会話一つとっても、まるで映画のワンシーンのようなダンディーでカッコイイやりとりに思わず見惚れてしまう。
更に視点の移り変わりも絶妙です。
各視点が本当に良いタイミングで変わるので、各々がその時どんなことを思い行動しているかがよくわかります。
登場人物たちがそれぞれの信念のもと行動し、それが交わった時物語が一つずつ前に進んでいく。この構成力は正に圧巻の一言です。
正直嫉妬すら覚えてしまう。
私はこの領域に至ることが出来るのか、同じ作家という肩書きを背負っているというのに何故ここまで違う。
悔しさのあまり読んでいて歯を食いしばりました。
このようなレビューも書きたくはなかった。
これ以上に差がついてしまえば、もう永久に追いつくことなど出来ないだろうから。
しかしそれでもこのレビューを書いたのは、この作品があまりにも魅力的すぎるからです。
私の心は鷲掴みにされました。
それはまるで、心臓を直接握られているかのよう。
その深淵の如き叡智に、私は嫉妬とともに心からの尊敬を送ります。