第52話 サイドH リリン その2

 

 ファイアーボールを連発し、チビの盗賊を追い詰める。

 当たらない。

 猿のように木から木へ飛び移り接近してくる。


「ボブ、あとどれくらい?」


「ジュウビョウ、クライデス」


 レッサーパンダのボブが答える。


「よし、いくよ」


 ファイアーボールを打つのをやめる。

 肩を落とし、力尽きて出せなくなった演技をすると、チビが一気に距離を縮めてきた。


「終わりだ」


 剣を抜き、飛んでくるように接近するチビ。

 勝利を確信しているのだろう。

 下卑た笑みが浮かんでいる。

 だが、勝利を確信しているのはこちらのほうだ。

 チビがアタシに襲いかかる瞬間、ボブの獣化が溶け、ワタシの真横に身長2メートルの黒人が登場した。


「なっ、なんだっ」


 驚いて動きが止まるチビをボブの拳が襲う。


「がっ、はぁっ」


 鈍い音がして、チビの顔面が陥没した。

 そのまま吹っ飛んで木にぶつかる。

 気絶したのか、そのまま動かなくなるチビ。


「ボブ、盗賊の情報を引き出すから手足切断しといて」


「ホワッ、ソ、ソレハ、ムゴスギマス。ヤメテアゲテクダサイ」


 ちっ、と舌打ちする。

 作戦では変身がとけたら、剣で斬りつけるはずだった。

 しかし、ボブは殴る方を選んだ。

 どうやら人は殺せないようだ。

 とんだ甘ちゃん加減に反吐がでる。


「じゃあ、木に縛り付けて、ワタシが拷問する」


「シカシ、ヒノテガ、セマッテイル、ココカラ、ハナレナキャイケナイヨ」


 確かに周りは火の海だ。


「ファイアーボール解除」


 火を消すイメージを強く念じると、周りの火がすべて消える。

 昨日の夜、あの女の部屋で実験していた。

 ワタシが自分の炎で自爆することはない。


 ボブがチビの服をやぶって、簡単なロープを作る。

 それを使い、チビの身体を木に縛り付けた。


「お楽しみの始まりね」


「オー、マゼチャンノ、キメゼリフネ」


 拷問タイムの始まりだ。



「は、話す、すべて話すからもう燃やさないでくれっ」


 何度か身体を焼いているうちに、チビは情報を話しだした。

 右手は溶けて原型を留めていない。

 もう少し、拷問を楽しみたかったが仕方ない。

 盗賊の根性などこんなものだろう。


「俺たちは全員で10人いる。親分の名前はバトス。

 バトス盗賊団と名乗っている」


「全員、オマエみたいなスキルを持っているのか? それも全部話せ」


 チビは顔を歪めて少し黙るが、ファイアーボールを手の平に作ると慌てて話しだした。

 盗賊団10人には、それぞれナンバーが振り分けられ、ナンバーの数字が低いほど階級が上らしい。


 ナンバー10 貧弱のパズン 能力 絶対記憶

 ナンバー9 はったりのジョージ 能力 石つぶて

 ナンバー8 お調子者のブーケ 能力 空中浮遊

 ナンバー7 長身のイサム 能力 剣のばし

 ナンバー6 俊足のガバチョ 能力 索敵 迅動

 ナンバー5 拘束のペッジ 能力 金縛り

 ナンバー4 巨漢のドム 能力 巨大化

 ナンバー3 仮面のロイ 能力 瞬間移動

 ナンバー2 魅惑のレラ 能力 魅了

 ナンバー1 団長 バトス 能力 怪力 鉄鋼


 ざっとまとめるとこんな感じか。


「これで全部とはかぎらねぇ、皆自分の能力は隠したがるし、新しく覚えたりもする」


 嘘はいってないだろう。

 聞いてもいない二つ名まで話している。

 ナンバー2の魅了のスキルは、あの女と同じものか。

 失態を思い出し、歯ぎしりする。


「残り全員、アジトにいるのか?」


「たぶん、下の三人は洞窟前の畑で農作業をしているはずだ。ドムは見張りをしている。他の四人は中にいると思う」


 なるほど、大体は把握した。

 厄介な能力もいくつかあるが、奇襲して火を放てばなんとかなりそうだ。


「わかった、もう用はないな」


「こ、ここまで話したんだっ、見逃してくれるだろう?」


 泣きそうな顔のチビ。

 見逃すわけがないだろう。


「大丈夫、炎は使わない」


 杖を構える。

 アイツの頭を砕いた時の快感を思い出す。

 ワタシの顔は笑っているだろう。


「オー、マイ、ゴッド」


 ボブが十字を切り、天を仰ぐ。

 チビの頭目掛けて、杖を思いっきり叩きつけた。



 チビの頭が首に埋まっていた。

 とっくにチビは生き絶えて、その時にレベルも2に上がっている。

 少し時間をかけすぎた。

 早く、アジトの洞窟を目指さなければ、ワタシが潰す頭が減るかもしれない。


「ボブ、行くよ」


 そう言った時だった。


 空気が震えた。

 何が起こったかはわからない。

 目の前の世界が書き換わるような感覚。

 明らかに何かとてつもないことが起きていた。


「ナニ、コレ?」


 ボブも感じている。

 空を見上げて、目を見開いていた。


 空気が重い。

 まるで世界が悲しみに震えているかのように、何かがねっとりと身体にまとわりつき、重く感じる。


「負の感情」


 これは感情だ。

 何故か世界が感情を持ち揺れている。

 この感情をワタシは知っている。

 魔法少女に変身する前、ずっとワタシが抱いていた感情だ。


「ぁああああぁぁ」


 あの男の声が聞こえた。

 直接頭に響くような声。

 何かがあったのだ。

 女に何かがあって、なんらかのスキルが発動したのか。


「マゼチャン、コレハ?」


「わからない。でも、急いだほうが良さそう」


 とんでもないことが起きているのかもしれない。

 だがやる事は同じだ。

 すべての頭を潰す。

 ただ、それだけだ。


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