第48話 サイドH リリン
強烈なイジメにあっていた。
思い出すのも嫌なほどのイジメ。
靴は毎日隠され、机の中にはいつも小動物の死骸が入っていた。
オタクだった自分は、幼い頃からあまり友達を作らなかった。
一人でいることが好きだったし、友達を欲しいとも思わなかった。
誰の邪魔もしないから、ワタシの邪魔をしないで。
そう思っていたのに、アイツはワタシの世界を邪魔してきた。
クラスのリーダーで、少し大人ぶったアイツはワタシをイジメのターゲットに選んだ。
最初は小さな嫌がらせだったのが、だんだんとエスカレートしていき、やがてクラス全員がワタシに対して嫌がらせをしてきた。
ワタシは一切抵抗せず、妄想の中でクラス全員を殺していた。
『本日のイベント』
『盗賊討伐ミッション』
黒板に書かれた文字を見る。
デスゲームの世界に連れてこられたが、ワタシの中に絶望はない。
人を殺すミッションに、前からここに居る男と女が動揺しているようだ。
女の顔を見て、ワタシをイジメたアイツを思い出す。
ギャルのような外見がアイツと似ていてムカムカする。
しかし、今はまだ怒りを抑える。
確実にヤレる時まで、妄想の中で殺しておく。
あの時と同じだ。
周りが全部敵でも構わない。
ワタシは弱いワタシから強いワタシに変わることができる。
「ワタシ、着替えてくる、です。ミッションは魔法少女マゼちゃんでやる、です」
女の部屋で着替える。
あの日もワタシはマゼちゃんのコスプレをした。
それはアイツの命令だった。
「お前、オタクなんだから明日この格好で登校しろよ」
無茶苦茶をいうアイツに逆らえずに、魔法少女の格好で登校するワタシ。
電車で白い目で見られながら、ワタシは杖を握り締めながらただただ妄想の世界に入り込んだ。
「ワッチがきたっ!」
マゼちゃんのコスプレをして教室に戻る。
これをしていると無敵になった気分になる。
負けないワタシ。強いワタシ。
前回、醜態を晒したが、正義は最後には勝つ。
いつかあの女も地獄に落とす。
初期装備で選んだ杖をみて、思わず笑ってしまう。
ああ、やはりこの格好はいい。
早くこの姿で暴れたい。
この杖を人の頭に減り込ませたい。
アイツの頭を割ったようにだ。
教室に着くとアイツは満面の笑みでワタシを迎えた。
腹を抱えて笑っていた。
何故だろう。
普段どれだけイジメられても妄想の中でしか抵抗できなかったワタシが、我慢ができなくなっていた。
いつものワタシはどれだけ馬鹿にされても構わない。
だが、今は魔法少女なのだ。
ワタシはずっと憧れていた魔法少女になったのだ。
「ワッチを笑うな」
自然と魔法少女のセリフが出る。
「ああっ、糞虫が、何人間の言葉をっ、ぶっ」
アイツの言葉は最後まで聞こえなかった。
脳天に杖を叩きつけると豚のような呻き声を上げ、アイツの頭から噴水のように血が吹き出た。
「あっ、いっ、ぶふっ」
血をまき散らしながら芋虫のように這い蹲るアイツの頭にさらに杖を振り下ろす。
杖の先端には鉄の玉を仕込んでいる。
二発目でアイツの頭が大きくへこんだ。
右の目玉が半分飛び出して、醜い顔になる。
「は、ははっ、ぶっさいく。虫はアンタだ」
笑った。生まれて初めて心から歓喜した。
あまりの興奮に小便をちびりそうになる。
「あ、ああっ」
声にならない声を上げ、右手でワタシの足首をつかむアイツの腕に杖を叩きつけた。
骨が折れる音が伝わり快感が増す。
周りにいるクラスメイト達はただ呆然とその光景を見ている。
待っていろ。全員、頭を潰してやる。
瀕死のアイツの頭にさらに何発も杖を打ち込む。
頭はひしゃげ原型を留めなくなり、飛び出していた目玉が千切れて転がってきた。
すでに足元のアイツは、ぴくりとも動かない。
魔法少女マゼちゃんの設定を思い出す。
合体したハナちゃんとカレンちゃんは、もともといじめられっこといじめっこだったのだ。
ワタシとアイツ。いじめられっこといじめっこ。
合体。ワタシは魔法少女。
気がつくと、落ちていたアイツの目玉を拾っていた。
それを口にくわえる。
三つ目の目玉が口の中で、何を見ているのか。
ワタシは躊躇せず目玉を噛み砕いた。
「キャアアああっ」
それまで黙って見ていたクラスメイト達が、覚醒したように叫びだした。
「うるさい、神聖な合体を邪魔するな」
ワタシは杖を振るい、クラスメイト達の頭を潰しにかかった。
『出席番号30番 アイさん』
「はーい」
スピーカーから名前を呼ばれた女が返事をすると、その場から消えた。
いよいよ始まるようだ。
『出席番号 33番 ハジメ君』
「はい」
男も消えて、ワタシと外人の二人だけになる。
「ダイジョウブ、トウゾク、ミンナ、ボク、タオス」
外人が胸をどん、と叩く。
だが、ワタシは首を振る。
「違う。全部だ」
「ゼンブ?」
首を傾げるボブに笑いかける。
役に立つならお前だけは潰さないでやる。
男と女がいた席を両手で指指し、笑う。
「ワッチは全部潰す」
あの時、クラスメイトの頭を全部潰す前に、教師に取り押さえられた。
十人くらいは潰した感触があったが、半分以上残してしまった。
今度はしくじらない。
全部、全部、全部ぶっ潰す。
『出席番号36番 リリン』
「ワッチが行く」
魔法少女の戦いが始まる。
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