第6話 恋愛イベント アイ

 

「ちょっと、待って」


 右手を前に出してアイを止める。


「ダメだよ、付き合ってない男女が一緒の部屋で住むなんて」



「なに照れてるの? ハジメ君童貞?」


 わかりません。

 記憶がないので。

 なんかアイが悪戯っ子のような笑みを浮かべて近づいてくる。

 心臓が跳ね上がりドキドキする。

 ダメだ。ここで主導権を握られたら負けだ。

 気持ちを落ち着かせる。

 無だ。無になるのだ、ハジメ。


「とりあえず、スキルについて教えてくれないかな。部屋を作るかどうかまだわからないんだから」


「えっ、あれ? うそ? 効いてないの?」


 アイがビックリしている。

 効いてない? 何がだろうか。


「えっと、あっ、スキルね。スキルは大まかに分けて三つのタイプがあるの」


 アイが右手の指を三本出す。


「まずは個人スキル、これは最初からあるスキルでその人の性格や能力に影響されていることが多いわ。警戒心の強いルカは索敵。相手の上前をはねて生きてきたシュンのハイエナみたいにね」


 なるほど、目立たないで生きてきた自分には隠密のスキルがついていたわけか。

 アイは自分のスキルについては説明しないが、どんなスキルを持っているのだろうか。


「次に装備スキル。これはスキル持ち装備をゲットすることによって使えるようになるスキル。ルカの片目ゴーグルには、鑑定のスキルがついてるみたいだけど、結構レアでなかなか手に入らないわ」


 最初、自分を鑑定してスキルなしといったあれか。

 どうやら隠密に鑑定は効かないらしい。


「最後はサブスキル。補助的な役割を持つスキルでスキルガチャで手に入れることができるわ。少しステータスが上がったり耐性がついたりするみたいだけど強力なスキルはないみたい」


 なるほど、200Pを使ってすぐにスキルガチャを引くほどではなさそうだ。

 それよりも装備スキルのほうが気になる。

 レアな装備はやはり敵を倒して手に入れるのだろうか。


「他にもレベルが上がれば、レアスキルや強奪スキルといったものも覚えるようになるらしいけど、まだかなり先のことね」


「かなり先、それまで生き残れたら、か」


 薔薇バラの花瓶があるシュンの机を見る。

 アイもつられて視線を向ける。

 すこしの沈黙。


「スキルはこんなところかな、他に聞きたいことは?」


「あ、食料にABCの種類があったけどどれがいいの?」


「Cはおすすめしないわ。カロリーメイトのようなブロックと水が毎回でてくる。栄養は取れるみたいだけど味は三種類しかなくてすぐ飽きるわ」


 ポイントの節約になると思ったがこれはやめたほうがよさそうだ。


「Bは学校の給食みたいなやつ。特別美味しくもないけど不味くもない。揚げパンの日とカレーの日がうちは好き」


「もしかして飲み物はずっと牛乳?」


「もちろん」


 悪くはないが毎回牛乳はきつい。


「Aはホテルの食事みたいで豪華よ。ステーキも出るし、飲み物もオレンジジュースやコーヒーね。自分でメニューは選べないけどポイント高いだけあって満足のいくものがでてくるわ」


 ごくん、と喉が鳴る。

 ダメだ。話だけでお腹が空いてきた。

 ここに来てからまだ何も食べていない。


「レベルが上がるとSの食事もあるみたい。誰も頼んだことないけど。ポイントが高すぎるって言ってたわ。あと食料は交換してもすぐ来ない。決まった時間に机の上に送られてくるわ」


 ポイントが命に関わるこの世界で食事にそこまでポイントは割けないのだろう。しかし、いますぐ食べれないのか。おなか空いたなあ。


「ありがとう、だいたいわかった」


 やはり最初は部屋を作ったほうが良さそうだ。

 しかし、それはアイと一緒に暮らすという意味ではない。


「部屋は作るよ。でも一緒に住むことはできない」


「えーー」


 アイがあからさまにがっかりする。


「でもトイレやシャワーがないと困るだろうし、寝る時も落ち着かないだろうから交代で使うのはどうかな?」


「え? いいの? ただで?」


 ぱぁ、とアイの表情が明るくなる。

 コロコロと変わる表情に、少し和んでしまう。


「ただし、アイさんが100ポイントを取るまでです。なるべく早く取ってくださいね」


「そんなことなしにしてさ。ずっと一緒に住もうよ。お礼にエッチなこともしてもいいんだよ?」


 上目遣いで寄って来る。

 血の付いたセーラー服もなんだか色っぽく感じる。

 また、心臓が少し高鳴る。

 その気持ちを落ち着かせようとすると、少しだけ記憶が蘇る。

 学校の教室で女子が騒いでいるとき、空気のように存在感を消している自分の映像が頭に浮かんだ。

 断片的に蘇る記憶が結構情けなくて、ダメージを受ける。

 しかし気分は落ち着いた。


「駄目ですよ。もし俺が死んだら、また困りますよ。一人で頑張れるようになりましょう」


 ぷーー、とアイが頬を膨らますが無視する。

 携帯のポイント交換で『食料一週間分B』と『ロッカーを部屋に』を選ぶ。


 残りポイントがちょうど100Pになる。

 装備ガチャを回したいが、ここは何かあった時のためにポイントを残しておく。


 席を立ち、さっそく自分のロッカーを開けに行く。

 本当に部屋に変わっているのだろうか。

 少しドキドキしながら扉を開ける。

 明るい。部屋には電気が付いている。

 真っ白い部屋だった。

 玄関があり靴を脱ぐ。

 廊下の左に白い扉があり開けるとトイレとシャワーがあった。

 風呂がないのは残念だが、たぶんポイントで交換できるのだろう。

 正面にも白い扉があり開けるとベッドがある部屋になっている。

 ベッド以外はなにもない。

 窓もベランダもないただの白い部屋だ。


「これは色々揃えたくなるなあ」


 いったん教室に戻る。


「どうだった?」


「うん、味も素っ気もない部屋ができてた」


 携帯のポイント交換をタップすると冷蔵庫や洗濯機などの家電がラインナップに増えていた。

 冷蔵庫は10P、洗濯機は20P。

 戦闘に関係ないもののポイントは低いのだろうか。

 基準はいまいちわからない。


「これから二人で色々揃えていこうね」


「ひ・と・りで揃えていきますっ」


 強めに言うと、アイは再び頬を膨らませた。




 

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