第13話 回忌新宿Ⅶ

「ジャンヌ、よく聞くんだよ」

「ここは神様にお礼を言う所だよ」

「いつも私達を見守ってくれてありがとうって」

「お参りする事で、神様にお礼を伝えるんだ。私達はこうして、元気にいられたのも神様のおかげなんだ」


 いつ頃の記憶だろうか。初めて教会にお父さんに連れて行ってくれた時、そのように教えてくれた。5歳だったか、分からない。だけど、この言葉を信じ、私は教会に通い始めた。

 私の前の体の時の記憶、私はとても走り回るのは好きだった。ある時は森の川で体洗ったりしていた時もある。夕食にスープが出てきたのも懐かしい。

 協会に通って何年か経った頃、協会にいつも通りお参りしていた時だ。私はその時に天から声を聞いた。もう何言っていたかは思い出せない。ただ、中央が男性、左に女性、右に男性の声が聞こえたのは思い出せる。なぜ神の声だけは主出せるのかは不思議だった。


『貴殿を火の刑としょうする』


 裁判所、今で言うならそこで私はそのように言い渡された。だが、やはり前後に何があったかは思い出せない。

 そういえば、2歳の頃、二階から飛び降りた事があったが、その時に私は前の私が2階以降の高さから下の芝生に落ちた時の記憶を見ていた。反動で動けない状態で、近くにいた者がすぐに駆け寄ってくる。

 気づいた時には2歳の見ている風景に戻ったが、既に落ちた後だった。なぜ、あの時だけ、昔の私の記憶を見たのか今でも思い出せない。

 死に際、処刑されている時、私は徐々に感覚がなくなっていき、力も抜けていった。耳は何も聞こえず、目に映る景色もモノクロへと変わっていた。


『もし、新たな人生を歩めるなら、記憶と名前は捨てたい』


 私はそう思ってしまった。だから、今の私へと変わった。記憶と名前を失った私はただ、彼女の成り代わりだった。ジャンヌと思い出せたのは、ジャンヌ・ダルクと呼ばれた記憶があった。ただ、それだけだ。


「私は何のためにここにいるんだろうな」


 私はエレベーター内でそう呟いてしまった。一度記憶を失っていたが、今年の2月にそれらの記憶を思い出してしまった。だから、今の私がここにいる。最初の記憶が疑問だったり、初めて見た夢が何だったのか、それらの一部をその記憶で解決してくれた。

 今の私は私の謎を追いかける存在だ。

 エレベーターが到着した時、私は歩いた。ゆっくりと、目をゆっくりと閉じながら、一歩ずつ歩いた。


「待ち遠しかった。彼女みたいに捕まりに来たか」


 さっきの神父がなにか喋っている。私は何も言わずにただ階段を登った。登った後に先輩は私の存在に気づき、驚きの表情をしていた。


「何も返さない。つまり、彼女みたいになりに来た――」


 神父は振り向いた時に驚いていた。なにせ、殺したはずの人物が悠々と生きているのだ。それは驚くのは決まっている。

 なにせ、私は傷を別へと移す魔具を所持していた。それを使用しただけでこの場にいる。


「なぜ、生きている!!右脇腹を軽く貫いたはず・・・」

「えぇ、死んでいてもおかしくない。だけど、これがあれば、話は別だった」


 私は腰の装着していた藁人形を取り出した。藁人形には脇腹付近に穴が空いていた。それは、私が受けた傷跡の場所だ。ちなみに、私の右脇腹の服は破かれていて、肌を露出していた。

 それを見た時、彼は一歩後ろへと下がっていた。


「なぜ、そんな物があるとは聞いたことは」

「ないだろうね。これは傷を移す人形、傷をなかったことにする魔具だ」


 私はそれを投げ捨てた。一度しか使えない消耗品だから、今は持っていても必要はない。


「なぜ、そんな効果がある。聞いたこともない」

「丑の刻参りって言葉は聞いたことある?」

「?」


 彼は突如の質問に膠着する。後ろの空中にいた先輩もえ?みたいな表情をしていた。


「人形に釘を刺して、人を呪い殺す呪縛方法、それを逆手に取ったのがあの魔具になる。だけど、欠点は一度しか使用出来ない事ぐらいかな」


 私は背中に背負っていた竹刀袋を両手に持ち替えた。そして、袋の紐を解き、中から現れた刀の持ち手を強く握った。


「そんな偶然が重なるわけがない。円状展開フィールド


 彼はすぐに渡しに攻撃を仕掛けた。私の周りに8本の鎖が出現し、私に向かって飛んでくる。だが、私は目を閉じ、そして開けた。その目の色は青く輝き、右目に文様が浮かび上がっていた。そして、8本の鎖は一瞬で砕けていった。

 私は飛んでくる鎖を全て刀で切り落とした。しかも、ほんの一瞬でだ。

 それを見た彼は後ろへと下がった。表情は何かに怯えているような、そんな表情だ。


「まさか・・・異界者、なぜここに・・・」


 私は体制を戻し、刀を下ろした。刀を構え直し、刃を彼へと向かせた。


「我が名はジャンヌ・ダルク。死してなお、戦い続ける者」

「馬鹿な」


 私は走り出した。彼は私をここにこさせないように鎖を次々と出現させ、妨害してくる。だが、私にはそれが全て読めていた。だから、全て叩き落としていた。足元に鎖による壁を作られたが、私はそれを破壊した。


「ち・・・相性が悪いか。なら、これならどうだ」


 彼は小瓶を投げ、それが地面に触れて割れた。すると、魔獣が次々と現れた。


「回忌によって集めた魔力・・・ですか」

「苦労して集めた魔力をそなた如きに使うなんてな」


 魔獣は襲ってくる。その時に私の髪の色が黒に近い茶髪へと変貌していった。魔獣を一振りで仕留めていき、最後2匹となった所で、私の腕に鎖が巻き付いた。彼の妨害だ。だが、私は拘束されている右腕を前へと出した。すると、鎖はたちまち弾き飛んでいった。


「な・・・に」


 彼が驚いてる中、私は残りの魔獣も仕留めた。

 驚くのも無理はない。私には妨害系の魔術などはほぼ通用しない。拘束しても、それを普通に破壊出来る。隠蔽しようとしても、私には効かない。私のはそういう類の物だ。


「何驚く。私はそういうのは通用しない。先程も耐えるのに必死だったよ」

「拘束が効かないだと!?」

「あなたの体内に何匹の魔獣を飼ってる。いや、全てで7匹だったか」

「!!??」

「図星か。魔力と魔術の威力を高めるために人体実験をした所だろうが、私はあなたを人としては最初から見ていない」


 私は再度、その刃を彼へと向けた。


「これより、する」


 私は走った。ほんの20歩程の距離を。彼は右腕に鎖を巻き付けて、私に向かった殴ろうとした。だが、私は一瞬の内に彼の右腕を片ごと切り落とした。そこからは血が溢れて出て、彼は絶叫していた。


「アァァァアアァァァアァ!!」


 彼は右肩を左手で抑えながら、後ろへとフラフラと下がっていた。そして、壁に当たった。息も荒くしないながら、こちらへと向いてくる。後ろで先輩を拘束していた鎖は消え去り、先輩は地面へと落ちていった。幸い、そんなに高くなく、先輩は自力で着地出来たが、着地直後に倒れた。

 そこに奄美さんが到着した。状況を見た時、何が起こったのか分からない表情をしていた。だが、どこか安心していた。


(遙華、あなたは妹を信じてたのね・・・)


「く・・・こんな所で死ぬ訳にはいかない」


 彼は突如と顔や切り落とした右腕から黒い煙が上がっていき、獣のような黒い腕が出現した。目の色も赤くなり、それはまるで魔獣のような姿へと変貌していた。

 今まで貯めていた力、彼はそれを全て開放したのだ。それでは精神を保てるわけがない。だが、彼は保っていた。


「私にこのような姿をさせた罪、償わせてもらうぞ!!」


 彼は叫びながら、私に向けて鎖を展開してくる。鎖も彼の影響なのか、先端が尖った物ではなく、魔獣の顔のような物へと変わっていた。私は飛んでくる鎖、それを刀で振り下ろした。前方に向けて、私は斬撃を魔力で放っていたのだ。

 勢いあまりに鎖は全て弾け飛び、彼自身も壁に勢いよく当たっていた。斬撃により、体には一つの斬れ後が残り、そこから血が出ていた。


「私の・・・私の回忌は・・・ここで終わるわけには・・・」


 私は走る。彼が怯んでいるうちに、刃を彼へと突き刺すために。

 彼の心臓部分へと突き刺し、そのまま力任せに破損している壁に向けて押し始めた。


「ガア、貴様!?」

「そのまま朝日とともに落ちていけ。それがお前の償いだ」


 壁は徐々に崩れていき、崩壊していた。崩壊とともに私は刃を抜き、最後の斬撃を彼へと浴びせた。

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