第12話 回忌新宿Ⅵ

 エレベーターは最上階へと到着した。藤崎は警戒するように降り、辺りを見渡した。眼の前に階段がある程度で、何もない。


「ようこそ、傍観者の方」


 階段の先には神父服、アグラが立っていた。藤崎は落ち着いた表情をしながら、階段の前へと歩き出す。


「やはり、あなたは『アグラ・バルーチャ』。テロ集団の幹部がこんな所になぜいるの」

「やはり私の名は知られていましたか」

「思い出すのに時間は掛かりましたが、世界で数件のテロを起こしているとなると、こちらでも把握します」

「それで、私をどうするつもりですか?」


 階段前へと歩いた藤崎、刀を握りしめ、懐へと刃を忍ばせた。手で刃を触りながら、一息を入れた。その後に走り出し、階段を駆け登った。数歩ぐらいでジャンプした。

 アグラの少し上から斬りつけた。だが、彼の足元から出現した鎖でその刃を受け止めた。藤崎の刃はそのまま鎖を断ち切った。それを見越してなのか、彼は後ろへと下がっていった。


「無論、ここで捕縛するのみ」

「やれるでしょうか。相性は私の魔術の方が有利・・・あなたの魔術は空間系、そういうなら、私を捕まえてみよ」


 彼は彼女の周辺や空中から鎖を出現させ、狙い撃ちを始めた。攻撃を避けながら、避けきれないのは刀で全て斬り伏せていた。

 だが、鎖は斬られたり、当たらずに勢いを失った鎖は消え去り、新しい鎖が次々と現れてくる。だが、一本消えれば一本現れるように彼女を徐々に追い詰めていた。

 新しく現れた鎖に対しては空間を使い、途中にある部分を別の場所へと移動させ、鎖を真っ二つにして消滅させた。だが、次々と現れる鎖でも彼女の魔術では遮るのも無理があった。その時には後ろへとジャンプし、空間を使って瞬間移動した。


「流石に無限に現れる鎖に対処は無理があるようだね」

「えぇ、流石に私でも限界があるわ」

「相性というのはまさしくこういう事」


 彼は片手を前へと出した。その後に、


円状展開フィールド


 すると、彼女に周りに鎖が12本、一気に出現し前方左右から彼女に向けて、飛ばしてきた。それに向けて、藤崎は刀を大きく振り下ろした。



『こんな時になんだ』


 1人の女声が階段を登っていた。疲れなどを気にしている暇もなく、黙々と登り続けていた。その時に端末から誰かに通話をしていた。


「あなたの妹さんなんだけど」

『燐音がどうした?そういや、彼女は隠してたけど、君の所にいたみたいだな」

「えぇ、今致命傷を受けて死ぬかけてる。私が応急処置したけど、いつ死んでもおかしくない」


 彼女は急ぎながらも、ゆっくりと通話先の彼女に伝えた。通話先は燐音の姉、白御原遙華だ。彼女は燐音がこの仕事をしていたことは気付いていた。だから、彼女は止めはしなかった。そのような運命なのかもと思ったのも一利あった。


『彼女がその運命に自ら辿ったなら、まだ生きている』

「どういう事・・・」

『私もまだ曖昧だ。彼女は自身の目の先を見る力を持っている。だが、まだ覚醒していないのも事実。この出来事で、もしかしたら覚醒するかもしれない』

「それって予知能力・・・」

『いや、そういう類ではない。もっと正確な方だと思う。私も燐音の本音をあまり聞けてないから、分からないけど』


 奄美は階段を登り続けていた。今何階にいるのかは分からない。ただ、走り続けなければならない。今頃、上では藤崎が戦っているはずだ。そう思うと、彼女はより焦ってくる。


「分かった・・・。だけど、救護班は向かわせて。今でも死にかけだから」

『それは承諾する。場所は先程届いたから、救護班は急いで向かわせる』

「ありがとう・・・」

『礼には及ばない。それも私達の仕事だから』


 その後、彼女は端末の通話を切った。これで、助かるはずだ。一ヶ月前に入った新人をここで死なす訳にはいかない。あと何分持ってくれるであろうか。いや、もう時間もないのかもしれない。

 だいたい中間ぐらいの階層まで来た時だった。エレベーターが動いていた。誰かが上へと上がっていく。もし、白御原の言葉通りだったならば・・・。

 彼女は御札でスピードを上げて、一気にかけ始めた。



「いやいや、捕縛するのにここまで手こずらされるとは思いませんでしたよ」

「ぐぅ・・・」


 両手を鎖で掴まれ、身動きは取れなかった。空中へと脱出されたのを見越して、二本の鎖が彼女の両手へと掴んでいた。そのまま空中で身動きが取れなくなっていた。彼女の魔術『空間』は何かを経由してみないと扱えない。例えば、刀やナイフなどの類になる。

 だが、掴まれた時はまだ対応は出来た。だが、途中で新たに現れた鎖によって薙ぎ払われていた。


「この上は屋上、ヘリポートがあります。そこには既に魔術陣が描かれています」

「それは・・・まさか・・・」

「あとは起動するのみ。そうすると、ここは死の場となるでしょうな」

「絶対止めてやる!!」

「無駄な足掻き。あなたにはそれを見届ける傍観者になって貰う予定です。なにせ、何も出来ずにただ死に場になっていく新宿。それをあなたに見せ、心を壊すのも面白いからですし」

「・・・狂ってる」

「褒め言葉ですね。ははは」


 彼は愉快に笑っていた。8つのポイントに仕掛けた札、それは膨大な魔力が含まれていた。それを指定の場所に仕掛ける事により、十分な魔力を周辺で彷徨う。それによって、魔獣が今も出現している。一度発動すれば、朝まではそのまま、彼はそれを利用していた。

 その魔力を更に活かすために、その中心地のビルの屋上にて、最後の魔法陣を起動させる。そうすると、新宿には更に多くの魔獣が出現し暴れる。その後、他の地域へと進軍していく。朝になるまでそれは続いていく。

 魔獣は朝になると、太陽の光で消滅する。原因は不明、ただ、太陽の光は聖なる光と呼ばれている筋もあり、今もいろいろと理論が飛び合っている。


「そういえば、もう1人いましたね」

「奄美さん・・・」

「その人もついでに見てもらいましょう・・・、ちょうどエレベーターが到着した頃ですし」


 彼が屋上へと続く階段へと視線を送っている時、エレベーターが到着する音が聞こえた。その後、ゆっくりと歩きながらこちらへと向かってくる。

 その足音を聞きながら、彼は笑いをこらえつつ、語りだした。


「待ち遠しかった。彼女みたいに捕まりに来たか」


 彼の言葉に何も返さず、ただ階段を一歩ずつ登っていく。その姿を確認した藤崎は驚きの表情をしていた。いや、実際に言葉が出なかった。その人物は既に死んでいてもおかしくない人物だったから。


「何も返さない。つまり、彼女みたいになりに来た――」


 振り向いた時、彼は言葉を失った。そこにいたのは彼が一階で右脇腹を貫いて、既に瀕死状態の人物だったから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます