第2話 魔術使いⅡ

 夜の帰り道、いつもは慣れているが、やはり夜の道はある意味別の怖さを持っていた。痴漢や襲う者は遭遇した事はないが、やはり住宅街で誰もいない道を歩くのは怖い。

 いつも通りの道、いつも通りの光景、いつも通りの明り、いつ見ても何も変わる気配もない。


「――ん?さっきどうやって信号渡ったけ・・・まあ、いいか」


 ふと、私は足を止めた。理由は数秒の記憶が消えた事にある。前後の記憶があるのに、信号渡ったかどうかさえも分からなくなる。信号に立っていて、気付いたら渡っている。これは生まれた時からあった。

 ただの物忘れではない事は分かっている。誰かに記憶を切られ落とされたような気分だ。だけど、もう私は慣れてしまっている。だから、考える事なくそのまま歩き続けた。

 ただ、いつもと違うような感覚が私を包み込んだ。一緒のはずで何も変わりがない。だけど、私を包み込む不穏の風はあった。それでも私は自宅へと歩き続けた。

 私の感は当たっていた。蛍光灯の消えたり付いたりを繰り返している場所にその人はいた。通常の人では違い、何か、人ではない何かを私は感じた。

 今奥底で逃げろと誰かが連呼している。男が一歩歩き出した時、私は後ろへと一歩下がり唾を飲み込んだ。そして、男が二歩目を前へと出した時、突如と走り出してきた。人であって人ではないその走りは、まるでゾンビを連想させるような感じだった。

 私は咄嗟に後ろへと振り向き、走り出した。とにかく遠くへ逃げないと、逃げないと殺されるっと思いながら。


「ハァハァハァ・・・」


 コンテナが積まれた場所、そこへと走ってはフェンスの扉を触った。その扉は開き、偶然にも空いていた。誰かが鍵を締め忘れていたのだろうか。いや、今はそんな事を考える余地さえない。

 私は追ってくる者を振り切る為に中へと急いで入った。コンテナの影へと入った時、フェンスの扉が勢いよく飛んできた。蹴り飛ばした、いえ、力で破壊したのだ。


「ここにいては殺される・・・」


 コンテナは十字路が何個もあり、入り組んでいた。相手はこちらを探している。音で気付かれる危険性もある中、私はゆっくりと入り組んだ十字路へと入っていった。ゆっくりと音を立てずに、移動しながら、途中で石を拾った。

 ある程度奥へとあの怪物が移動したのを確認した後、出入り口へと戻り脱出する算段である。石を拾ったのは音で反応するかの確認だ。ゾンビなら、音で反応する事が多いからだ。

 なぜか、今の私は冷静だ。恐ろしいほどに、状況を理解している。私の目はどこを見ているのか、何を写しているのか、私にも分からない程だ。

 ふと、ポケットへと手で触れた時、ある事を思い出した。ポケットに手を入れ、それを取り出した。御札、今日面接時に受け取った数枚の御札だ。


『これはお守りだ。持っていくといい』

『そうだ。もしもの時、助け舟になってくれるだろ』


 もしかして、この状況になると思って渡してくれたのだろうか。だけど、これの扱い方など分からない。それでも私はこの御札の使い道を知っている。


「ありがたく使わせてもらいます」


 私は足を立てずにコンテナの壁に赤い色で描かれた御札を貼り付けた。すると、赤い線が一瞬光った。残っている御札も別々に設置した。全ての御札を設置した後、片手に持っていた石を投げる体制へと入った。

 私はただ海の方へと続く一本道をただ眺めていた。


「・・・今だ」


 私は石を投げた。そのまま真っ直ぐ飛び、海沿いの左から突如と姿を現したゾンビへと命中した。倒れることなく踏ん張り、私のいる方向へと向いた。私の姿を確認した後、こちらへと走り出した。

 一本道、私がここにいるだけではない。御札をこの一本道に全て配置した。最初に設置した御札が発動、炎がゾンビに多い囲み、燃えながら、左右に揺れながら次の御札が発動する。

 水によりこちらから見て、右から左へと押し出され、コンテナに凹みが出るほどに威力が水にあった。だが、それでもまだ倒れずにこちらへと進む時、三枚目の御札が発動し、下半身を凍らせた。そして、その左に張られた御札が突如と爆発し、ゾンビを巻き込んだ。

 全てもらったのは6枚、最後の2枚は緑と黄色からして、風と雷なのかもしれない。赤が炎、青が水、濃い赤は爆破、青空色は氷だった。

 この御札は攻撃、あの人は私にお守りとして渡してくれた。これがどんな原理で出ているのかは分からないけど、一度使うと御札は燃えてなくなる。

 だけど、4枚で結構なダメージを覆った。歩くことさえままならないはずだ。

 その通りだった。爆破で倒れた後、動かない。人を殺した実感、そんなのは一切感じない。私は人なのか、ここまでうまいこと物を運ぶ事も本意なのか。私には分からない。


「終わったの・・・」


 疲れせいか、その場で尻込みをしてしまう。一息していた時だ。もう動かない襲ってきたゾンビの肌が突如とボコボコと泡が破裂するのを繰り返していた。そしてそのまま立ち上がり、雄叫びを上げた。

 すると、姿が突然と変わり果て、大きな怪物へと成り代わった。

 私は突然の変異に行動が出来なかった。今ここを動かなければ殺される。それを理解した故に足が震えて動けなかった。御札は2枚しかないが、こんな獣に敵うはずもない。黒色の毛並みに赤い目、この世にいるとは思えないその姿はこちらへと目線を向けていた。

 今にでも飛び出そうとしている。


「こんな・・・こんな所では・・・」


 死ねない。死ねない。死ねない・・・。私はそう願いながらも、まだ動く両腕で後ろへと押し出し、下がった。そして、獣は雄叫びを上げ、こちらへと走り出した。

 その時だった。

 左頭上、どこか高台から撃たれた銃弾らしき物が獣へと命中した。本来の人なら、その場で死ぬ位置であるはずだが、獣は倒れずに足で踏ん張った。後ろの方から更に二人、黒服を来た二人組の男女が現れた。

 男性は両手にそれぞれ拳銃を握っており、もう片方の女性の人は何も持ってなかった。ただ、右手を前へと出した時、空中から魔法陣らしき物が数個現れ、そこから鎖のような物が飛び出した。その鎖で獣の両足を絡ませて動きを封じた。


「これは大物、30秒が限界!!」

「それで十分だ。全魔力の銃弾を撃ち続ける」


 男性の持っていた銃器が火を吹き、左右一発ずつ撃ち続けた。ハンドガンなら、すぐに弾切れを起こすはずだが、そんな事は一切起こることなく、撃ち続けた。

 獣の体中に命中していき、獣は叫んだ。叫び続け、足に力を入れたのか、足場が凹んだ。そして勢いよく鎖を引き裂いた。


「すまん。無理だった」

「大物って言いましたよね。リン、やって」


 大声で遠くへと女性は眺めた。獣は振り向き、二人の方へと向いた。その時また銃弾が遠くから飛んでき、頭に命中した。それも一発ではなく数発、間隔が明きながらも一発一発、全て命中している。

 それは紛れもないスナイパー、どこからか響く音は発射音だった。

 二人は下がりながら、鎖で獣の身体へと突き刺し、銃器を撃ち続ける。だが、それでも獣は前へと進もうとする。

 そんな3人が相手している時、私の後ろから足音と声が聞こえてきた。


「あんたら3人でみっともないね」

「奄美!!こいつは俺らの獲物だ。邪魔はするな」

「獲物?それはこっちが先に手を出したんだけど、それもうちのがね」


 奄美さん・・・、私が面接を受けた時にいた人、それにこの御札を渡してくれた人だ。


「こいつは今日入ったばかりの新人さ。まさか、こんな形で御札が役に立つなんて、思ってもなかったけど」


 奄美さんは、そのまま腰にあるポーチから御札を数枚取り出し、それを空中にばら撒いた。その御札は全て同じ色の線が引かれたものだった。

 腰に装着されているポーチは全てで10種類、ぐるりと囲む形で装着していた。全て似ている物であり、どれにどれが入っているのか分からない。だけど、奄美さんは使い分けているのか、すぐに取り出した。そして――


「炎」


 彼女が叫んだ。すると、撒いた数枚の御札から突如と炎の塊が御札分飛び出した。それが獣へと向かって飛んでいき、獣に命中する否や、炎が消えずにそれを多い囲んだ。

 凄まじい威力に二人組は後ろへと下がった。


「そういや、仕事内容言ってなかったね。私達の仕事はあれを討伐すること。あれから見るに、を見たんじゃないかな」

「・・・あれはもう生きてなかったんですね」

「呑み込まれた者は帰ってこない。あれは私達人類が生み出している怪物だから」


 呑み込まれた。魂を食らい付くされたっと言ってるのかこの人は。人は簡単に死ぬ。いえ、本当はそんなに死ぬこともない世の中だった。だけど、現実は違った。

 こういう人達がいたから、今まであんな怪物を見ずに済んでいたのかもしれない。

 あの怪物が私達によって生み出されている理由は分からないけど、あんな力や銃器を所持している。それが何かしら関わっているのかもしれない。


「っち、後退だ。獲物はどうやらあっちの方にあるみたいだしな」

「分かったわ。ここは情けないけど、撤退ね」


 二人組の男女はその場で後ろへと下がっていった。遠くにいたと思うスナイパーの人も彼女達の撤退を目に下がったのかもしれない。

 燃えている獣はこちらへと向き、なお動こうとしていた。

 それを見た奄美さんは次々と札を取り出し、その場で投げた。水、雷、氷、光などを次々と口で発しながら、御札による攻撃を仕掛け続けた。

 今目の前で何が起こっているのか、なんでこんな状況になっているのか、私に理解が必要だった。ただ、その光景は一生忘れることの出来ない出来事だったのかもしれない。


「ここまで成長してしまうと苦労するよ。あの3人がもう攻撃を仕掛けてもまだ生きてる。だけど、ダメージは大きい」

「それって・・・」

「もうじき倒れる。私が倒すわけではないけど」


 すると、大きな音を立てた指パッチンを行った。すると、コンテナ上に待機していたと思う面接の時にちらっと入ってきた赤目の人が日本刀を片手に飛び降りた。


「詳しいことは明日話すけど、時間帯はそちらが空いた時間にくればいい」

「あ・・・はい」


 飛び降りた女性は多彩な攻撃を浴びて、動きを止めていた獣に向けて空中で一振りした。


「空間切除」


 そう叫んだ時、獣の身体が真っ二つに斬られた。巨大なはずの獣をたった一振りで斬り倒し、倒れている最中に地面へと着地した。そのまま獣は地面切断された方も含めて地面へと倒れた。その後、ゆっくりと浄化されるように消えていった。その場にあったはずの人の死体もなくなっていた。

 赤目の女性はこちらへと歩いてくる時に日本刀を鞘へと収めていた。


「終わりました奄美さん」

「うん。さあ、撤収だ。立てるか?新入り」

「・・・はい」


 私は立ち上がり、尻についた埃を払った。奄美さんは私へと手を差し伸べ、私はそれに手を置いた。夜空、海から見える月の光が彼女達の後ろから包み込みながら、照らしていた。




 

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