第一章『回忌新宿』

第1話 魔術使いⅠ

白御原はくみはら燐音りんねさん。うちで働きたいと思った理由は?」

「初めて聞く名前だったので、興味本位で応募しましたのもありますし、何よりも仕事のやりがいがあると思った事です」

「そうね。でも、興味本位で来られただけでは死ぬかもしれない」


 私は先日、アルバイトを探していた。ここに来て一ヶ月経った時期、まだ3ヶ月分のお金もあるけど、早い段階でアルバイトを始めたかった。そんな時に高額収入で書かれた張り紙のバイト募集のポスターを見つけた。

 『魔獣討伐』とか『魔獣バスターに興味ある方は――』とか書かれていた。今時そんな物騒な事もないと思って、最初は応募するつもりもなかった。だけど、私の奥底で何か言っているんだ。

 『応募したほうがいい』って。だから、今私は面接を受けている。目の前にいるのはここの社長の奄美春香、見た目は20代後半って感じの女性だった。


「死ぬ・・・?」

「まあ、募集内容にそんな事書けるはずもないけど」


 死ぬ、魔獣討伐、死ぬ危険性があるからあんなに高額な設定になってたのかもしれない。死ぬって言葉を聞いても、今の私には恐怖さえ生まれない。実感がないから、いいえ違う。

 それとは違う感情が私の中に走っている。


「失礼します。奄美さん、新たな案件が本部から入ったのですが――」

「藤崎・・・今面接中だ」

「すみません。その子は新しい子ですか?」


 面接中、女性が入ってきた。とても綺麗な赤目をしていて、スタイルもよく、私と年齢があまり変わらなそうな人だ。


「あとで教えるから。それよりもその案件は後にしておいてくれ。先にこちらを終わらせるから」

「分かりました。オフィスで待ってます」


 赤目の人はそのまま部屋から出ていった。そのまま座っている私と奄美さんだけ、部屋に残っていた。奄美さんはため息を付きながら、私へと視線を向けて、


「それで、君には死ねる覚悟はあるか?」

「・・・死ぬ・・・覚悟・・・。人はあると言うと思いますが、実際に目の前に起こると恐怖が体を蝕む。一度、その現場に立ち会わない限り、私には覚悟があるのか分かりません」

「ほぉ・・・面白い答えだ・・・プ」


 彼女は笑った。死というどういう感情をすればいいのか、私には分からない。なぜか、私は一度死んだ事があるからかもしれない。どんな風に死んだのかは分からない。それもきっと幻なのかもしれない。

 疑似体験、今時に夢で疑似体験する者はあまりいないと思う。私は今でもそう思っている。


「今日は終わりだ。君なら、きっとここでもうまくやっていけると思うよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

「夕方、そろそろ夜になる頃だ。結果は後日メールで連絡を入れさせてもらうよ」


 彼女は席を立った。私も彼女がドアへと歩き出した所で立ち上がり出口へと向かった。部屋を出た時、奄美さんがポケットに手を突っ込んで、何かを手にした。


「これ、お守りで持っていくといい」

「これは・・・御札?」


 同じ文様で描かれた数枚の御札。全て色が違っており、まるで火や水の色を表しているかのように思えた。何の御札かは分からないが、何か不思議な力を一枚一枚から感じた。


「お守りだ。持っていて損はないだろ」

「はい。ありがとうございます」


 私はそれを空いていたポケットに入れ、礼をした。オフィスを通る時、先程の赤目の人もいたので、歩きながら礼をしながらビルを後にした。



「かなりいい人ですね」

「久々に笑ったよ。彼女なら、ここでは生きていけるさ」


 オフィスにいた藤崎は一枚の紙を見ながら、コピーされた同じ物を奄美へと渡した。


「今回の魔獣出現予想ポイントです」

「なるほどね。藤崎、準備。今回は行くよ」

「分かりました。すぐに刀の方を用意します」


 藤崎は立ち上がり、奥へと消えていった。奄美は部屋の端に掛けられていたポーチを取り出し、それを腰回りに装着して部屋を後にした。

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