第20話 仲間を獲得した
よく寝た。昨日はお買い物して、りんご食べて…
「はっ!」
「おはようございます」
「うぇ?!!」
寝起きの涎が垂れた跡もあり、髪の毛もぐしゃぐしゃ、加えて服もパジャマ。そんな状態の私の前にかしこまった様子で座る美貌の君、勘弁してください。
どんな羞恥プレイですか、そしてなんでそっちが恥ずかしがってるの。頭抱えたいのは私の方だよ。
「準備したら声かけるから」
「そう…ですね、お待ちしてます」
今日は任務受けるつもりだから剣と槍、それと鉄球用のウエストポーチ型の革の袋を取り付けた。
魔力がない私は魔物を倒すのに武器を大量に使用するというハンデがある。まあ魔力がない分、力に注ぎ込んでるらしいからそれでなんとかしよう。革の袋は形分の重さしか感じさせないし、剣と槍の重さには慣れるしかない。
残りはブーツを履くだけの状態になってから隣の部屋に声をかけた。
「はじめまして、カコといいます」
「イアンです、昨日はありがとうございます。ご迷惑をお掛けしました」
「いや、全然」
顔を拭って現れた美貌に見惚れながら食べる夕飯はなかなかに美味しかった。シモンもマリカも美人なんだけど、見てると時々こっちに害が及ぶ。主に精神的なダメージで。
受付嬢のシオリさんも眺めてると不審者を見る目で一瞥されるときがある。蔑まれて嬉しい人ならともかく、私は嬉しくない。
「私に触れて、何もありませんでしたか?」
なんだろ、この子。呪いにかかってたとかそういう系?毒とか?でもなんともなさそう、自分のステータス見上げても特に変化なし。
「なにもないね、別にHPも減ってないよ」
MPは減りようがない、と付け加えようとして勝手に精神的ダメージを食らった。オウンゴールだ。誰のせいでもない。
困惑しながらなにかをぶつぶつ呟いている彼はなにかトラウマになるような出来事でもあったんだろうか。それならこんな美人に触れる機会なんてそうそうないし、触れておこう。
「触ってもなんともないでしょ、ほら、あったかい。とっても普通だよ」
こういう時ラブコメのタラシの人は抱きしめたりするのだろうけど、私にそこまでのスキルと度胸はない。せいぜい近付いて手を握るのが精一杯だ。それでもよく頑張った。
細い指で骨ばっているが、肌は艶やか。美人なのは顔だけじゃないんだね。ちょっと生暖かい気持ちになって彼の顔を覗き込むと
泣いていた。
「え!!??そんなに触られたくなかった?!!ごめんごめん!泣かないで!悪かったから!」
「いえ、ありがとうございます」
慌てて離そうとした手はしっかり掴まれたまま、レベルが高いだけあって外そうと思っても外れない、彼は泣き続けた。あまりに泣き止まないから持って行く予定だったタオルを貸して、子どもにやるように背中を撫でてあげていた。
あ、そっか、私の見た目が12歳程度だから18前後に見える彼の方が大きいんだ。
そのまま泣き崩れる彼を抱きしめながら背中をさすって落ち着くまでその状態だった。いったい彼になにがあったんだ。
今日ギルドに行く予定はキャンセル、この子と星の夜亭でご飯を食べるに変更。人間、臨機応変な対応が大切だよね。
一人で勝手にそう決めて、女将さんにお部屋でランチしたいことを伝えた。
「いったい何があったの?」
「いえ、なにがあったというわけでは…」
「なにもなくて泣く!?それ、かなりストレスの高い状態だから休んでリフレッシュした方がいいよ、お買い物でも行く?それとも部屋で寝る?」
過労やストレス過多の状態が続くとある日突然なにも面白くないのに笑い出して収拾がつかなくなることがある。そしてそれを放置するとなにも悲しくないのに号泣しだす。もうそれは黄色信号どころか、真っ赤だ。一回止まって休んだ方がいい。
妙に実体験のある説得を試みたところ、正座に戻った彼は私にステータスを見せてくれた。
「すみません、普通に見えるステータスは偽装しているんです」
『名前 イアン 種族 吸血鬼
Lv.42 疲弊
HP: 80 MP:283
力 :50 魔力:260
物理防御:47 魔法防御:95
すばやさ:88 幸運:5
スキル:精霊魔法lv8 金縛りlv4 変化術lv6 調合 lv2
個性 :絶対零度 魅惑のフェロモン
称号 :孤独を命ぜられた者』
わあ、なんてファンタジー。MPと魔力が高くて、精霊魔法に変化!もう夢見る魔法使いそのもののスキル羨ましい。魅惑のフェロモンとか、見たまんまですね、わかります。
気になるのは絶対零度に加えて称号の寂しい感じ。レベルの割に低過ぎる幸運が彼の人生を色々物語ってる。
「個性の絶対零度があるせいで、普通は人と触れ合えないんです。触れると凍らせてしまいます、近くに寄るのも寒いと感じるみたいです。なぜカコさんは大丈夫なのでしょう」
なんとなくカラクリが読めた気がする。神さま、もうそのネタで弄るのやめませんか?私が魔法使えないのはもう十分理解したからさ。
他の人に迷惑かけてまでそれやるのやめようよ。こんな幸薄の青年を使ってまで私をいじめなくていいし、彼ももっと幸せにしてあげてほしい。
「それ、相手の魔力を使って凍らせるんでしょ、きっと。私は魔力ないから冷たさ感じないし、関係ない。だからイアンを温かいと感じる、普通に温かいもの」
安定の自分でいいながらダメージを受ける説明をすることとなった。こんな説明するのはいったい何回めだろうか。
イアンの手を握ってみるが、魔力があれば冷たくなるはずの彼は普通に温かい。しっとりと柔らかいその肌はスリスリしたくなる。気持ち悪いだろうから流石にしないけど。
彼の称号に反してて申し訳ないけど、この間の戦いでパーティの大切さと後方支援火力の有難さを思い知った。
そんなときに丁度、目の前に現れた魔法の使えるぼっち仲間を逃すほど私はどんくさくない。
「私とパーティ組んでくれない?」
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