突然ですが親父の葬儀となりました

二次オタ煩悩

突然ですが親父を天に送ります全力で

 リビングに入って目の前にした光景に、俺は言葉を失った。


 真っ白な布を被せた祭壇の上には複数の蝋燭と花束。

 そして、親父の底抜けな笑顔を切り取った写真—―遺影。


「……おぃおぃ、マジ……かよ」


 あの親父が死んだ?

 会社から無理難題を吹っ掛けられ周囲が脱落していく中、涼しい顔でこなし。

 セクハラ言葉を吐く度に元レスラーの母にフルボッコにされ、しかし良い笑顔。

 周囲からはゴキブリ並み生命力を持った伝説のGごとうさんと呼ばれていた。

 あの親父が……死んだ……だとっ……⁉


「誰が親父を……? もしかして毒殺……いや親父じゃその程度じゃ死なない……もしかして銃殺……ってすばしっこさアスリート並みの親父に当たるわけないし……じゃあ誰がッ!」


「喚くんじゃねぇよ、拓哉」


 感情剥き出しで推測を叫び続ける俺に、背後から頭をコツンとチョップする母親。

 母の手元には我が子でも抱くように大事に抱えたパック詰めの団子。

 その【90%OFF】とシールが張られたパックから団子を出して母は仏壇に置く。

 そして仏壇前の座布団に座り、鐘を一回鳴らし、遺影を見る。


「まったくさぁ、手の掛かる奴を残して先に逝っちまうなんてなぁ。あたしの苦労を考えてくれってなぁ」


 踏ん切りがついたような母の表情。

 本当なら自分も泣く所なのかもしれない。

 だが、何故か涙が一筋たりとも湧かない。


「ほら、拓哉も拝んでおきな」


 拝み終わった母親に勧められ、俺は座布団に座り鐘を軽く叩く。

 棺から顔を見せる親父は、まだ生きているかのようだった。


「親父……俺まだ、親父に礼を言えてなかったんだ」


 親父が死んだと実感はない。だけど目の前にある現実。

 それは”親父が死んだ”と定義させるには十分なものだった。


「俺さ、母さんに似たのかやんちゃで親父にはよく迷惑をかけたと思う。だけど、罪悪感とか一応あったんだ。このまま迷惑をかけ続けていいのかって」


 今を含めた手の付けられないやんちゃぶりを思い返しながら。


「死んだ後にこんな事を言うのは親不孝だと思うけど、ごめん。そして今まで……」


 気づけば、俺の目尻には—―


「あ……れっ」


 じわじわと涙が溢れて頬を伝い、地面に幾度も落ちていた。


「どうして……いまさらっ……」


 理解してしまった俺はあまりにも無力だった。

 涙を止めようにも止められず。だが、最後まで言うと自分に誓う。


「なぁ……親父、今まで……育ててくれてっ……」


「育ててくれて?」


「ありが—―…………」


 おかしい。どういうことなのだろう。

 親父は死んだはずなのだ、死因は分からないが。

 しかし、なら、何故、


「ほらほら? 言ってくれよ拓哉ぁ~。ありがぁ~からのぉ~?」


 俺は知っている、この糞ウザいノリを。

 俺は知っている、このぶっ殺したくなる程のニヤけた笑顔をなァ‼


「おーい、拓哉く~ん、立ち上がって何を—―」


 俺はその場で体を超高速回転させて遠心力を付け。

 照準を棺に向けて—―地球割りをした。


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突然ですが親父の葬儀となりました 二次オタ煩悩 @morimorimomizi

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