似顔絵と殴り込み
マヘラの大暴れの結果、情報が続々と集まってきました。商人としてもマヘラにさっさと帰って貰いたかったのでしょう。旅商人や旅芸人、行商に旅人と、オアシスに集まる人々を使ってインディゴの似顔絵が拡散されていきました。
--可愛くかいてね。ユーラちゃんはいつも僕の写真をとって喜んでいたから。きっと似顔絵でも喜ぶと思うんだ。
インディゴは尻尾をぶんぶん振って、そう言いました。
--ユーラという名前から調べてもいいかもしれんな。
コンラッドは似顔絵を描く商人の頭の上で偉そうに尻尾を振ってそう答えました。
ちなみにマヘラは商人からお願いだからと頼まれて、家に帰って焼き肉を食べていました。商人は、犬でさえ行儀というものがわかるのに、なんであの行き遅れはそれがわからんのだとぼやきましたが、インディゴが尻尾を元気よく振っているのを見ると、まあ、インディゴには関係ないから心配しないでいいよと言い添えました。彼もまた犬好きなのでした。
一方、マヘラ姉ちゃんの方です。マヘラは商人に何もかも任せると、暇になってまた庭で暴れました。結婚したい剣などと称して岩は壊す池は爆発させるのやりたい放題です。飽きたら酒と肉を食べて庭で転がって寝ていました。
昼頃になってマヘラ姉ちゃんは起き上がり、なんで美女が外で寝ているのに誰も襲いに来ないんだいと地団駄を踏んで激高しました。
暴れた後で、不意に世界的発見をしたような顔になりました。見識が足りない人は大抵定期的にこういう顔をします。
--分かった。私がモテないのは世界が悪いせいだ!!
それで文句を言ってやろうと剣をひっさげて結婚の女神の神殿に怒鳴り込みに行きました。神官たちが困ったのは言うまでもありません。
マヘラ姉ちゃんの対応に当たったのは結婚の女神の神殿でも結婚歴七〇年という神官長です。結婚の女神の神殿は、当然ながら既婚者しか神官になれなかったのです。
--なるほど。結婚できないのは神々や世界が悪いだと。
--そりゃそうだよ、でないとおかしいでしょ? 私ほどの女が独り身なんておかしくない?
神官長は白目を剥き、ついにお迎えが来たかと部下が慌てましたが、単に呆れかえっていただけでした。
--なるほど。そういうことであれば、もっとも強力な魔法をかけましょう。結婚の女神の神聖魔法で、東西南北上下そして無風の七つの風の名にかけて、理想の相手を見つけてくるのです。
--それだ!
正座してマヘラ姉ちゃんは魔法をかけてくれるのを待ちました。
神官長はこほんと咳払いすると、片目をあげてマヘラ姉ちゃんを見ました。
--しかし、無料で、とはいきませんよ。最近神殿も経営が厳しいのですから。
--まか、せろ。
それでマヘラ姉ちゃんは太古の古代遺跡の最下層で化け物を倒したり、塔の上で囚われているお姫様を助けたりして三日ほどでお金を集めて神殿に戻ってきました。こういう人に限って行動力は有り余っているのでした。
神官長はこれだからバカは嫌いなのよと悪態をつきながら神聖大魔法を使いました。
マヘラ姉ちゃんは胸の前で指を組んで、自分が花嫁になる姿を想像しました。
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