第33話
ランスロットに言われて、エレーナは再び指輪をじっくりと観察した。
確かに紫色の宝石は自分の瞳に似た色をしている。しかしと、エレーナは首を傾げる。
「私の瞳はこの宝石のように綺麗でしょうか...」
「...ふはっ!」
エレーナの真面目なトーンでの呟きに一瞬目を見開いたランスロットだが、その後たまらないと言った様子で吹き出すように笑った。
ひとしきり笑った後、隣に腰掛けるエレーナの方へ覗き込むようにして瞳を合わせる。交差した彼の眼差しはとても優しくそして熱っぽく、エレーナは胸が飛び跳ねるのを感じた。
「なるほどそうだな。君の瞳の色は宝石では現せない程綺麗だ」
「....!!」
「俺は出会った時から君のその瞳が気に入っている。細くて小さくて、すこし手を加えれば軽々折れてしまうのではないかと思う程弱々しい印象があったが、君のそのアメジスト色の瞳には確固たる意志を感じて目が離せなかったのを覚えている。」
ランスロットの脳裏には初対面の執務室で視線を交わせたあの日の事が思い出された。スリッと優しい手付きで彼女の目下を撫でる。思わず目を閉じたエレーナの瞼に空かさずキスを落とした。
「エレーナ。前言撤回してくれ。先ほど"これ以上幸せになったらバチが当たると言った事を」
「ランスロット様?」
コチンとおでこ同士を重ね合い優しく抱きしめる。ランスロットが優しく笑うと2人の間の濃度が高くなった。
「俺は君を心から愛している。今以上の幸せを君に与える力も覚悟もある。君のその瞳に影が落ちないよう、生涯をかけて幸せにする事をこの指輪の輝きに誓おう。だからこんなものでは無いと覚悟しておけ。お前が生涯与えられる幸せはもっと広く深い事を」
珍しく饒舌に語るランスロットに対して、エレーナは胸がいっぱいになった。こんな幸せを願った事は幾度とあった。だが、それが叶うとは想像する事は出来なかった。それが今この手にあるのだ。
エレーナは性急にランスロットの背中へ腕を回す。自分の喜びを表現するようにできるだけ力強く抱きしめた。勢い良く抱きついたのに、ランスロットの体はエレーナを丸ごと受け止めてぐらつかなきもしない。暖かい温もりを保ったまま抱きとめてくる。そして、そのままエレーナの頭を撫で上げた。
「幸せですランスロット様」
「ああ....」
耳元でランスロットの低く笑う。「伝わっている」と言われているようでエレーナは嬉しくなった。
「俺もだ」
2人はあと数ヶ月後に控えた結婚式と結婚生活に思いを馳せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます