第27話
「びっくりしたわキース。あなたも参加していたのね」
「エレはいつも驚いてばっかりだなぁ」
クスクスと笑いあう2人の隣でランスロットは、はぁっと深いため息をつく。今は基礎訓練の後の小休憩だ。ランスロットの手ほどきが厳しすぎて模擬戦に参加予定の騎士団たちがバタバタと倒れたのだ。30分の休憩と称して、みな家族や友人達の元に戻った。ランスロットも師団長クラス用に仕切られた招待者席で休憩を取っていた。
「鍛え方が足らん」
「はは。団員だけでなく招待客も怯えていましたね」
「明日何人辞めていくか....」
「辞めろメニエル。
メニエルの透視能力をランスロットが慌てて止める。実際辞める者がいたとして、自分の配下のやつであれば問題ないが他の団員だったらと思うと恐ろしい。
「はっはっは!第1騎士団は矜持だけが高い奴らばかりよ。このくらいで辞めるならそこまでという事だ。」
「なに、第三騎士団もたまには怠け癖を鍛え直さんとな」
「騎士団全体が盛り上がるのは良いことだ」
騎士団長達もカラカラと笑っている。そしてその近くには騎士団総括のバルサルト殿下も居る。バルサルト殿下は前回エレーナと会った時の空色の髪や瞳では無く、公務などでよく見る本来の金髪姿だった。この姿のバルサルトを見たエレーナはさらに恐縮するしか無かったのだ。
ランスロットは嬉々として話す3人に目を向けた後、今度はもうひとつの心配へ顔を向けた。エレーナとキースベルトだ。2人はいまだにニコニコと話をしている。
「お前ら、いくら幼馴染と言っても周りの目があるんだ。ほどほどにしておけ」
「あ!そうですよね....すみません」
「うるせー。お前には関係ないだろ」
「俺はエレーナの婚約者だ。キースベルト」
「俺はエレの幼馴染だ!」
一触即発な2人だ。しかしオロオロするのはエレーナだけでその他の騎士団は何も反応を示さない。むしろ微笑ましいと言った表情を浮かべている。エレーナの不思議そうな顔をみてロイがクスリと笑う。
「ナカルタ国との合同訓練ではもう見慣れた光景なんですよ」
「見慣れた?」
「一日一回はあの2人エレーナ様のことで揉めてます。」
「まぁ...!」
知らなかった事実にエレーナは目を丸くする。今の今までランスロットからキースベルトの話を聞かなかった。そのためこんなにも2人が関わっていた事すら知らなかったのだ。エレーナは困った顔でキースベルトを見やる。
「キース....まさかランスロット様にご迷惑を掛けているのでは?」
「ゔ....」
「......キースベルト」
「やめてくれエレ。昔からその顔に俺は弱いんだ」
さっと目を逸らすキースベルトだが、今までで一番居心地の悪そうな表情を浮かべていた。
二人のパワーバランスを垣間見た瞬間だ。
エレーナの視線から逃れるようにキースベルトはランスロットを睨みつける。
「だいたいお前が屋敷に呼んでくれないからエレに合う機会が無かったんだ」
「体調が戻るまで面会謝絶だっただけだ」
ふんっと鼻で笑うランスロット
たしかに、ここ数週間はエレーナの体調を慮って屋敷にキースベルトが来ても門前払いをしていた。
「じゃあもう元気になったなら会いに行っていいよな。顔を見る限りだいぶ体調は良さそうだ」
「ええ。もうお薬も欠かせていないわ」
手を握って脈拍を診るキースベルトにエレーナは自慢気に笑う。
その様子をランスロットはエレーナの頭を撫でてからキースベルトに向かって頷いた。
「構わない。常識ある時間であるならいつでも来い」
ランスロットの答えにキースベルトだけでなく、その場にいたロイやメニエルも目を丸くした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます