第2話


「"骨抜き軍人"とはどういう事だ。くそ」

あながちち間違いではないのでは?」



コツコツと騎士団の廊下を歩く3人の足音が響く。

ランスロットの苛立ちに答えたのは、騎士団団員のメニエルだ。その後ろで声を押し殺しながら副師団長のロイ・ハーツが笑っている。

舌打ちをしたランスロットはギロリと仮面の奥から射抜くような視線を2人に向けた。



「メニエルお前言うようになったな。」

「まぁ、わたしは変人軍人殿に大きな借りを与えたツワモノですから」

「はっはっは!!!!」

「うるさいぞ!!!!ロイ!!」




八つ当たりにほぼ近いランスロットの怒号だが、この2人はどこ吹く風。偶然にも近くを歩いてた団員がビクリと肩を揺らし早歩きで過ぎていった。ちょっとした被害者だ。



「姫さんもそろそろ慣れましたか?」

「...まぁ、元々クレメンス家の屋敷に居たからな。生活としてはそう大して変わらん。」



婚約したと言っても、ランスロットは仕事と屋敷の行き来が主だ。エレーナは屋敷の中で過ごす事が多い。それは婚約前と対して変わらない。

だが一つ大きく変わった事がある。



「茶会の招待がひっきりなしだな....」

「...ああ」



婚約式を終えた後から、ランスロットとエレーナ宛に数多くの招待状がくるのだ。

建前は「婚約のお祝い」と言うの物が多いが、エレーナへの興味が殆だ。そしてエレーナに取り入る事で今まで遠巻きにしてきたクレメンス家ともお近づきになれるチャンスと思っている輩も多い。

しかし、エレーナは拒否できない招待状以外は殆ど欠席することにしていた。欠席できるものをランスロットが選定し、欠席の手紙を書くのがエレーナの役割となっている。そのため、日中のかなりの割合を机に向き合っているのだ。




「だが、いくつかは拒否できない物も増えてきた」

「わざわざ大物の伝手つてを使って来ているんでしょうね」

「貴族というのは本当にめんどうだよ」



チッと舌打ちをしたランスロットは師団長室のドアを開けた。メニエルが眼鏡を直しながらランスロットから外套を受け取る。



「私は庶民の出なので貴族のあれこれはわかりませんが、いつかはやらねばならない事なのではないですか?」

「一応姫さんも令嬢教育を受けてきたんでしょう?」



2人の質問にランスロットは頷く。聞いた話によると、実母が亡くなる前はそれこそしっかりとした令嬢教育を受けていたようだ。実母が亡くなった後も頻度は減ったが祖父のおかげで続いていた。ただやはり、義母であるネアが来てからは一切無くなったという。


執事テイラーが講師を手配した。数ヶ月すれば形になるだろうという話だったな」



ソフィア家という名家の出ということもあるが、今後はクレメンス家の名を背負う必要がある。代々「貴族であるのが鬱陶しいから騎士になった」という家系であるのでそこまで堅苦しくするつもりもさせるつもりもないのだが、最近のエレーナはどこか必死になっている節があるのだ。



「気負い過ぎなければいいんだがな」



ポツリと呟いたランスロットの声は、仕事を再開した2人には届かなかった。






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