第59話


「心配は要らないとはどういう事ですか?」

「お前の知るところでは無いという事だ」



クツクツと笑うシフォンに、訳がわからないと首をかしげるのはエレーナの方だった。




「実はね。君の婚約者は、君の妹君と婚約をするんだ。」

「...っ!?」

「私としては出来るだけ早くソフィア家の令嬢と結婚したい。その旨を伝えたところ16を過ぎたお前をこちらに寄越して、その後釜あとがまにイーダ嬢を置くそうだ。それによってこちらの言い分も、ソフィア家の面目も、相手側との繋がりも保てる。なんて浅ましく勝手な話だろうね」

「そんな事....」

「イーダ嬢は快く承諾したそうだよ。どうやら君の元婚約者殿に好意的らしい」



次々明かされる真実に頭がクラクラしてくる。



「もともとお前の婚約も、『誰でもいいから年頃の娘を紹介してくれ』との申し出だったそうだ。しかし半年過ぎても婚約者候補のまま。遊ばれていたんだ、お前。」

「そんな事...きゃっ!!」



「そんな事はない」と言う前にツカツカと近づいてきたシフォンに腕を掴まれる。ぐらりと傾いたそこには用意されていたベットがありそこに押し倒された。シフォンの目には欲情と蔑みが浮かぶ。首元を優しく撫でる手にエレーナはビクリと体を揺らした。




「可哀想になぁお前。ソフィア家でも虐げられ良いように使われて、元婚約者にもか。俺も別にお前が良いという訳ではないんだよ。ただ君の、ソフィア家との繋がりが欲しいだけだ。ソフィア家の医療技術は今後俺の力になるからな。まぁ思った以上に好みだったから楽しみが増えたが」

「....ッ!!」


シフォンの顔がゆっくり近づいてくる。エレーナは怖くてたまらなかった。首筋に唇を寄せられチクリとした痛みが走る。耳元で聞き慣れない低い声が囁かれた。



「で?お前は元婚約者にどう遊ばれたんだ?半年以上も飽きさせないテクニックでも持っているのか?

傷物でも気にしないよ、私は。ソフィア家が手に入るなら安いものだ。」

「ーッ!!」



バチンっ!!


エレーナは渾身の力を持ってシフォンの頬を叩いた。怯んだシフォンの胸を押し這い出すとそのままベットの端まで逃げる。

しかし、グイッとエレーナの左足が自分の意思とは関係なく引っ張られエレーナの体はうつ伏せのままベットに倒れこんだ。足元を見ると、右足に嵌められた鎖をシフォンが握っているのが視界に映る。逃げられない。そう気づいたと同時にぞわりとした悪寒がエレーナを支配した。



「そんなひ弱な力で男に勝てると思うなよ」

「放して!!」


なおも抵抗するエレーナだが、シフォンの言う通り力では勝てない。鎖ごと引っ張られてズルズルと元いた場所へ引っ張られていく。まるで口を開けたワニに食べられるようだ。



「ランスロット様っ!!」


恐怖で引きつった声を上げて助けを求めたのは優し人。誰よりも何よりも心を開けた唯一の存在。元いた場所に戻されエレーナは再びシフォンの下で身を硬くする。その様子をみてシフォンはにやにやと笑みを絶やさない。



「お前、そのランスロットという男が好きなのか」

「...違い、ます。」



エレーナはフルフルと首を横に振る。しかしシフォンにはその否定は届かない。



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