第49話
「え....」
「エレーナさま!」
目の前の彼女の言葉にエレーナは頭が真っ白になるのを感じた。ぐらりと地面が揺れたように不安定になる。崩れるそうになったエレーナを支えてくれたのはレイヴンだった。
「ダダイ...?」
「エレーナさまのお父様であらせられます」
「!!?」
顔面蒼白になったエレーナの代わりに彼女が口を開く。その答えにさらに顔を真っ青にしたのはレイヴンも同じことだった。
「お嬢様、今からわたしとソフィア家へ」
「それはダメです」
レイヴンはエレーナの肩に触れると促すように屋敷の方へ押す。
「証拠がありません。現在エレーナ様はランスロット・リズ・ド・クレメンス様がお預かりしているご令嬢でございます。まずはランスロット様に報告されて指示を仰ぐのがマナーです。」
「現在ランスロット殿は屋敷を開けているとお見受け致します」
「貴女の言葉は信用できません」
レイヴンと彼女は言葉の応戦を繰り返す。二人とも声色は静かなのに今にも一戦を交えそうな雰囲気があった。特にレイヴンはランスロットからの命令に忠実でエレーナを守るために未だに剣の鞘から手を離そうとはしない。
「では貴方はエレーナ様がダダイ様の最期を看取れなくてもいいと言うことですね」
「っ!!」
冷たい視線のまま放たれた彼女からの言葉はレイヴンの瞳を揺らした。
エレーナはそっと瞼を伏せる。母が亡くなって父だけが唯一の家族だ。継母や義妹ができても大切に思えるのは父だけだった。母と仲睦まじく寄り添う父の笑顔を思い出す。私には生み出せなかった父のあの笑顔。あの顔をもう二度と見れなくなってしまうのだろうか。私が頑張ればいつか見せてくれるかもと思っていた、あの笑顔を。
「レイヴン....ごめんなさい」
「エレーナさま」
レイヴンはエレーナの方は振り返った。これから言う言葉に気づいているレイヴンは眉を寄せる。
「....いけません、エレーナさま」
レイヴンの声にエレーナはそっと首を横にふる。主人であるランスロットの命令とダダイの命、彼にこの決断を強いるのは酷だ。
「彼女について行くわ。貴方は止めてくれたのに私が無理を言って出て行ったの。」
「...でも」
「大丈夫よ。すぐ戻ってくるわ」
さらに優しさを込めて微笑むと、レイヴンはおし黙るように唇を結んだ。
数秒、はっと息を小さく吐く。困ったように眉を下げてエレーナに頷いた。
「.....わかりました。ティナの所へ行きましょう」
「ありがとう」
ティナとテイラーに事のあらましを伝え急いで身支度を整える。彼女とともに屋敷を出たエレーナ。
その後、屋敷に帰って来ることは無かった。
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