第40話
「さて、どうするか」
手を引かれて馬車から降りれば、賑やかな風景がエレーナの目を楽しませた。以前連れてきて貰った時は太陽が沈む直前だったのだが、今回は日中だ。賑やかさも先日とはまた違う。ワクワクしているエレーナと対象的にランスロットはキョロキョロと周りを見渡した。
「そういえば、テディや料理長が買ってきて欲しいものがあるってお手紙を預かりました」
「は?」
慌てて馬車の中に置いた荷物から一枚の封筒をランスロットに手渡す。訝しげに封筒を開けた彼はこれ以上無いのではないかというくらい虚ろな目をした。
『休みを捻出するのに夢中で無計画な旦那様へ』
「......」
そんな書き出しだ。虚目にもなる。
おのれ....長年勤めているから俺のことをわかったつもりでいやがる。
しかしその内容も買い物ついでのウィンドウショッピング。休憩で茶屋。おススメ茶屋のピックアップ(多分エレーナ好みの)が記されている。
正直有難い。腹が立つくらい有難い。
「ラ....ロットさま?」
首を傾げたエレーナを見て紙をくしゃりと握りつぶす。
「ただの買い物リストだ。まずはこのリストを済ませてしまおう」
「はい」
「レナは何かしたい事、買いたいものはあるか?」
この使用人プランを軸にするが彼女の意見も聞くに越したことはない。装飾品でもドレスでも何でも好きなものを買ってやる準備はできているのだ。
するとエレーナは少しだけ顔を赤らめて「あの...」とおずおずと言葉を発した。
「もう一度、ブロッカを食べたいです。沢山種類があったので、実は気になっていて....」
「.....」
言葉と連動するようにだんだん小さくなっていく彼女を、瞬きを忘れて思わず見つめてしまう。
食べ物を請われるとは思わなかった。それは高価な物ですらない。あの時何気なく立ち寄った屋台の、安上がりなご当地名物。
初めて2人で出かけたあの日を忘れてはいないことに、改めて「楽しかったのだ」とわかる事に、ランスロットは胸がいっぱいになった。
思わずにはいられなかった。
なんだこの可愛い生き物は。
このまま胸に閉じ込めてしまいたい衝動にかられながら、ランスロットは軌道修正をして彼女の手をとった。そのままエスコートする形で腕に手を沿わせる。もう片方の手を自分の胸元に起き、騎士流の礼をする。
「お望みのままに」
こうしてランスロットとエレーナの2回目王都デートは幕を開けた。
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