第27話


シフォニア城の目と鼻の先にある王都御用達の屋敷が今日の夜会会場である。さすが王家御用達と言っていいほど煌びやかな世界がそこに魅せていた。時刻は夜会開始は今より少し先になるのだが、屋敷前にはこれまた煌びやかな装飾をした馬車や人々が列を成している。




「夜警班に合流したい」

「...なにいってるんですか。これも仕事ですよ」

「.....夜警班に合流したい」



夜会会場の廊下を歩きながら、思わず漏れたランスロットの本心を、横に仕えていたロイがすぐさま拾い上げる。

本日ランスロットはクレメンス家代表兼第2騎士団団長という立場で夜会に出席している。そしてロイは騎士団団長補佐だ。つまりランスロットの場合は半分仕事、ロイに関してはほぼ仕事という立場である。ちにみに彼のいう「夜警班」は本日、王宮警備機関である第1騎士団が務めているためランスロットには無関係である。




「殿下にはお会いになりましたか?」

「さっきな。」


騎士団統治をしている殿下には、部下権限ですでに会ってきた。今回の招待の礼....そして



「お嬢さんに会えなくて悲しんでいたでしょう」



"お嬢さん"という一言に考えるまでもなく彼女の笑顔が浮かんでしまうのが悔しい。チッと舌打ちをして腕を組んだ。



「"私に見せたくないくらい溺愛してるんですね"ぇだと」

「あながち間違いではないですね」

「な訳あるか」


クツクツと楽しそうに笑うロイを横目にランスロットは再度舌打ちをするのだった。



「でも今日は連れてこなくて良かった思いますよ」

「なぜだ」

「今夜は殿下との顔合わせを兼ねたパーティだった様で、娘のいる貴族のほとんどに招待状を送ったようです。」

「.....ソフィア家にもか」



ロイが何を言わんとしているのかわかった途端スッと空気を冷やすようにランスロットの声が低くなる。チラリとロイのいる方向に目を向けると、同じく冷めた目をした彼が薄ら寒い笑顔を貼り付けていた。



「イーダ・ラド・ソフィア嬢。ずいぶんお美しい方だと。」

「見目はな」


エレーナの義妹だという彼女は、はたからみても目を引くらしい。らしいというのは人に興味がないので夜会に参加してもろくに人の名前と顔を一致させないからだ。つまり覚えがない。

だが、着飾って自分を保っているだけの女だというのはわかる。勿論それは領地を統べる貴族であるために必要な事ではある。領主は領地の鏡だ。領地のトップが見窄らしい格好をする訳にはいかないからだ。しかし領民の血税を湯水の様に使いそれを行って良いわけではない。信頼もなくできた鎧はやはり脆弱であけすけだ。



「金に困窮している様だ。あいつに危害が及ばぬように大金を送ったのだがそれでも不満らしい」



ランスロットはソフィア家に「婚約者決定の保留」という名目で毎月金を送っている。それこそ貴族が1ヶ月安心して暮らせる程の額である。しかしその額すら奴らには不服だったらしい。それだけ金に困っているという事だろう。





「まぁ、なんであれ、あれの平和が保てるのなら安いものだ」

「....おや」

「うるさい」




わざとらしく目を開くロイを言葉で制しランスロットはまたため息をつく。まだ始まらないこの夜会が早く終わらないかと祈るがその時空気が動いた。





ガッシャーーン!!

キャァアアア!!

ワアア!!




「「!!」」



突然ガラスが割れる音と男女の叫び声が響く。反射的に腰につけていた剣へと右手を添えるが、騒動は少し遠い位置で起こっているようだ。



「これは...」

「どうやら穏やかな夜会にはほど遠そうですね」

「....最悪だ」




2人はさっと視線を交差させ、騒動の方向へ駆け出した。




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