第24話
「夜会に出る事は、ランスロット様のお役に立てますか?」
ランスロットは目を瞬せてエレーナを凝視する。目線の先には彼女の優しい笑顔があった。
「ランスロット様、私もう何も望みません。」
「は?」
そしてその朗らかな笑顔には似つかわしくない言葉が彼女の口から発しられた事でランスロットはさらに困惑した。
「クレメンス家でお世話になって、ランスロット様や使用人の方々とお会いして優しい心を向けられる幸せを知りました。大通りを歩いてみて楽しい時間を過ごせました。もう十分です。結婚もするつもりはありません。クレメンス家へご恩が返せるように馬車馬のように働いてみせます。だから、せめてランスロット様のお役に立ちたいです。」
「それは違うエレーナ。」
慌てたランスロットは自らの膝に置いてある彼女の手を包み込むべく、椅子に座る彼女の前に片膝をついて近づいた。
「お前は自分を卑下にしすぎるきらいがあるな」
ふうとため息をついたランスロットは、日頃仮面で隠れた瞳が見えるからだろうか怒っていない事がわかる。
「ここに連れてきたのは恩を着せるためとかそんなつもりではない。見たことのない景色や物に触れて欲しかったんだ。そして楽しいと笑って欲しかった。ただそれだけだ。」
「ランスロット様....」
「夜会の事もそうだ。騎士団で話した時お前は夜会に思いを馳せていたから、行きたいのなら経験させてやりたいと。」
二人の間に風が流れる。
「お前はもっと欲を持っていいんだ。諦めなくていい。したい事やりたい事を我慢しなくていいんだ。俺は...」
触れた手に力が入った。ランスロットはぐっと何か言葉を飲み込むと、困ったように苦笑すると優しく呟く。
「俺はそんな君の欲を叶えたい」
そんなランスロットに反してエレーナの表情は困惑が見て取れた。「すみません」と小さく呟いた彼女はそっとランスロットに握られた手を放してしまう。
「良くわかりません。ランスロット様のお役に立ちたいという気持ちはおかしいですか?」
「いや...」
エレーナの思わぬ反撃に戸惑ったのはランスロットの方である。この子の心の闇は出会ったばかりの自分がどうにかするには早すぎた。ただこの子に恋したと自覚しただけの自分では。
「そうか。...そうだな。困らせる事を言った」
ランスロットはエレーナの肩をポンと軽く叩くとスッと立ち上がった。
「...さぁそろそろ帰ろう。夜会の話はこちらで一旦持ち帰る」
「わかりました」
素直に頷くいたエレーナを見届けてランスロットは気づかれないように息を吐いた。「夜会に連れて行く」という考えはこちらのお節介だった。明日にでも殿下に御目通り願って欠席の旨を伝える。そう決断をしてランスロットは厩舎経由でクレメンスのお屋敷に戻ったのだった。
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