第450話 祖母の杖(レンタル)
今日お初に祖母の杖を持ってみた。
込めた力の分だけふわっと余計に持ち上がった。
四つ足なんだから重量があるのかなと思うじゃない? とんでもない! これなら祖母の弱った握力でも簡単に持ち上がるし支点がしっかりしているから体重をかけても転びません!
実際に母が仕事でいなくても一日八回(利尿作用の薬を飲んでいるから)のおトイレにも自分でいけるし紙パンツも自分ではける。
ちょっと効きすぎじゃないかと思われる【利尿作用のある薬】を飲んでていても漏らすことはなくなった。
独りで過ごす日中といえば下半身は紙パンツだけなのでいちいちズボンを脱ぐ手間がかからなくてそこがいいのだと思う。
祖母は母が家にいる間だけズボンをはくようになった。
学校が休みの時は仕事のある母に「一緒にいてあげて」「おしっこの回数と時間を記録しておいて」などと頼まれてしまうのだけれどわたくしの出番はというと祖母のお昼寝の後で体を起こしてあげることくらいになった。
福祉サービスは使い倒せと言ってくれたお友達がいて、おかげさまで本当に助かっております。
ところで介護福祉に一石を投じる作品を考えた。
テーマは母親の介護と看取りをしおおせた女性がそれを見守ってきた娘に介護される側になってなにを思うのかっていうもの。
母に聞いてみたら「ありがとうございますよ」って言うから現状あまり介護のお手伝いになっていない自分なのにと思っていたら母は母で「あなたには自分の人生がある。私だって若いころは働きづめだった。今は週三日でパートだから、時間的ゆとりがある。私はやりたいことをやってきたの」というお応えだった。
そして「介護が必要になったらデイサービスのお世話になる。あなた一人が頑張る必要はないの。わたしは全然大丈夫だからたまに顔を見せに来たよーっていうのうれしいから」と嘘かほんとかわからないことを言った。
不埒なわたくしは思った。
それじゃあますます母に自由がきく今でこそ勉強しなくちゃなわたくしなのではないのか?
シリアスに思っていると母は今度は父の笑い話をしてきた。
「お父さんは病気持ちだからいろいろあるけれどそういうわりには一生懸命に仕事をして六十歳まで勤め上げたし今は好きに暮らしているけれどお米をくれるし」
これ本当に笑い話だよね? オチはなんだと言いたい。
「今は八十五歳になったらお前の世話になりにくるって言ってた。以前はオレのところへ来いよって言ってたくせにね」
はあそうですか。
母もその時はそれでもいいと思ったらしい。
「マンションは近くにお店がないから車は必要。でも年をとったら車は乗らないことにしてるし病院に行くのにもデイサービスへ行くのにも送迎バスが来るらしいの。食料品はコープの車が来てね」
でも温泉がついているのと静かなのがとりえの元リゾートマンションにそこまで魅力があるかというと……母の中ではいろいろ安い田舎じゃないかという結論らしい。
歳をとった人ほど都会に住んだ方がいいという説もあることだし今から考えておいた方がいいのかな。
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