第19話
ダンジョンに入ったウィチア一行は、セレスを先頭に歩く。
ダンジョンを歩くセレスの格好は受付をしている時とは違い、制服ではなく動きやすい軽装だが、なんとも異質なのは剣や斧などの刃物を一切持たずにグローブだけを身につけていることだった。
「全く。あんたたちと来たら、どうしてわたしばかりを頼ろうとするのかしら?」
「一番安全なのは、セレスの背中に隠れることだからなー」
「全くだ。鍵開けしかできない魔女に何ができるんだい?」
薄暗いダンジョン内でウィチアはミルトを睨むと、彼は見下したかのように笑う。
ウィチアはそれが気に入らないので、彼に向けて杖を向ける。
「おい。口には気をつけろよ? 現状、このパーティーで弱いお荷物はお前だぞ」
「おいおい。一人でダンジョンに来ることはできない魔女が威張ってどうするんだい」
「おいおいおい。このウィチア・バルファムート様は、今すぐにでもお前を生き埋めにすることができるんだぞ?」
「おいおいおいおい。やれるものならやってみなよ。ワンパターンなら、今度は負けないさ」
煽る二人の前に、セレスは握り拳を作り、正拳突きを放つ。
二人の間に鋭い風が通り抜け、影の魔物の首が吹き飛んだ。
「あら? 外れちゃったわね」
二人はゆっくりと拳を握ったり開いたりしているセレスを見据えた。
「は、外れたって思いっきりシャドーの首が吹き飛んでいるんですけど、セレスさーん」
「だから外したって言ってるじゃないの。次は当てるから」
ニッコリと屈託のない笑顔を二人に見せつけてきた受付嬢にミルトもウィチアも黙るしかなかった。
「魔女さんはわたしをここに連れ回すために頭を捻ったんだろうけど、そうはいかないわ」
ウィチアは何を言っているのか分からずにしばらく考え込んでみる。
隣にいるミルトを見るが、彼の方は何を言っているのか分かったようで、気に入らない表情でウィチアを睨んでいる。
「僕を利用したってわけか。ウィチアは随分と頭脳派だね?」
「利用……?」
「……じゃないみたいだ。これは本当のバカだったようだね」
ミルトは大きな声で笑いながらダンジョンの先を歩いた。
反対にセレスはウィチアに鬼のような形相で近づくと、ローブの胸ぐらを掴んで振り回してきた。
「ちょっと! どういうつもりなの! ミルトと組むって言って、わたしにダンジョン探索に駆り出させようとしたんじゃないの!?」
「いやいやいや! 私、そんなこと知らないから! カツアゲ良くない!」
「まさか本気でミルトと組むって言ってたわけ!? 全滅することを覚悟で!? わたしの心配と不安を煽る目的でもなくて!?」
「ははは。人の心をアンロックする魔法を持っているわけないだろ」
ウィチアは笑って誤魔化すが、セレスは呆れた顔で自身の頭を抱えた。
「全く。あんたって子は……どうしてこう、計画性も慎重さもないのかしら。本気で言ってるの?」
「本気も本気。マジでこいつと組もうとしてた」
「しかも、この男は改心したわけでもないのよ! 分かってるの!?」
セレスは狭いダンジョンの中で叫ぶ。
ウィチアの行動が彼女の不安を煽り続け、何度も怒らせるハメになっているのは分かってはいるが、目的のためならば手段を選ばないウィチアにとって、無理な話ではある。
「本人を目の前にして、僕の悪口を言うなんて悪い女の子たちだ。でも、僕は理由のない行動は嫌いでね。地獄から再び頂点を目指すためならば目的も手段も選ばないが、だからといって君たちを傷つける理由がない」
それは裏を返せば、理由ができれば傷つけると言っているも等しかった。
セレスは余計にミルトを警戒して拳を作るが、ウィチアも理由ができればミルトもセレスも裏切るかもしれないので、むしろ自然な発言に思えた。
目的のためならば、誰が傷つこうが、どんな手段を用いようが構わない。
その行為がウィチアの立場を危うくする現在は、選択肢にないだけで。
「セレス。初めに断っておくぞ。私もお前たちを生贄にして力を得られるなら、私は裏切るかもしれない」
「へえ? 覚悟はいいかしら?」
「い、今じゃないぞ!? この偉大なる魔女は犯罪者の真似事なんてしないから、理由がなければ傷つけたりしないって! マジで!」
セレスの拳は、彼女の魔法によって強化されている上に、たたき込む際に魔力を塊にして相手にぶつけることでさらに破壊力を上げている。
そんな一撃を食らえば、ウィチアはすぐに粉々になるだろう。
「このパーティーはすっごく面白いね。目的のためならなりふり構わず。絆や結束なんて言葉を蔑ろにした面子ってのが特に面白い」
ミルトは笑い、セレスは疲れた表情で項垂れる。
「そりゃー、このウィチア・バルファムート様が偉大なる魔女になるためのサクセスストーリー。そのためならなんだってやるしなー。力さえあれば仲間なんていらねえ」
「僕も金と地位さえあれば、仲間なんていらないよ」
「そして、わたしがウィチアを死なせないという目的から、ついてきてるわけね……」
結束なのか、なんなのかよく分からないパーティーメンバーの行動理念をダンジョン内で再確認する。
「よし。私たちパーティーの合い言葉は目的と手段を選ばない。目的のためならば何でもする、だ」
「最悪の合い言葉ができたわね」
ウィチアは元気良くセレスの背中を押しながらダンジョン内を歩いた。
アンロックしか使えないウィチアにとって、彼女を壁にしない限り安心してダンジョンは進めなかった。
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