第75話 完全に巻き込まれてるな……
「お前たち、こんなところで何をしてるんだ!」
「ヨルマ隊長こそ、何故ここへ?」
「最近このあたりで、不審な大きな音が何度も聞こえるというので」
「あ……」
大きな音……。
リリアナの魔法の爆発音!
魔法使いの練習場は、このあたりだったのか。しまった。そういやあ、ヒューが『今日も気分良くぶっ放してきたぜ』とか言ってたな。
せめてギルドに届け出でもしておけばよかった。
いや、いまさら言っても仕方ないか。
「イデオンの兵と協力して調査をしていたのだ。こんな洞窟にこそこそ隠れて……お前たちが犯人なのか!」
「いや、犯人って、俺たちはっ」
「リク、言い争う時間はないのじゃ。向こうで皆が待っている。私は先にいくゆえ。ヨルマも私たちが何をしているか気になるなら、ついて来るがよかろう」
「なにっ」
リリアナが転移陣の上で姿を消す。
その後、俺が転移陣に魔力を流すと、ヨルマも何が起こっているのか分からないままに、リリアナを追って行った。
最後に残った俺は、証拠隠滅だ。そよ風程度の風魔法しか出すことができないが、この辺りの乾いた砂はよく舞い、ここに人が集まっていた痕跡を消す。
転移陣が見つからなければ他の兵が追ってくることはないだろう。ヨルマたちはバラバラに広範囲を調べていたらしく、洞窟の外には全く他の人の気配は無い。
足元の土の下に埋まっている転移陣にもう一度そっと魔力を流し、俺も廃村へと飛んだ。
◆◆◆
「リク、リリアナ、ちゃんと説明しろ」
「ヨルマ隊長、ああ、じゃなくて、駐在武官さん、落ち着いて」
「ヨルマでいい。呼び方なんぞどうでもいい。シモン、お前が説明しろ」
「えっ、あのー、えー……僕ですか?」
間に入ってなだめようとしたシモンが、とばっちりを受けた。まあ、一緒にいるんだから同じように疑われてるか。クリスタやレーヴィも口は挟まないが、側で不安げに見ている。
ヨルマが追ってきた理由を言うと、シモンはうなずいて釈明しはじめた。
「んっとですね。ではヨルマさん、僕が説明させてもらいます。あの付近で聞かれた音というのは、多分リリアナさんの魔法の練習音です。そうですね?」
「そうじゃ。確かに音は大きかったが、人を傷つけたりはしておらぬよ。あ……」
「リリアナさん?」
「うむ……そのう、山を……ひとつ壊して消すのは、犯罪かの?ほんの小さな山だったのじゃ。岩だけの枯れた山で、人も建物も無かったのじゃ」
リリアナが青くなっておろおろとし始めたが、北の荒れ地の放置された場所なんだ。問題はないだろう。
ヨルマも呆れてか、大きな口を開けたまま放心している。
「山……消しちゃったんですね。えっと……さすがリリアナさん……です。ヨルマさん、冒険者ギルドの方で一応確認はしています。あの辺りは国も未管理の場所なので山の……えっと更地化も犯罪には当たらないはずです」
「一体お前たちは……。いや、山なんぞどうでもいいが……」
ヨルマは腕組みをして悩む。
「私は犯罪の予兆がないか調査しているのだ。大きな盗賊団が住み着いた可能性もあるからな。このままお前たちの話だけを鵜呑みにして放って帰るわけにもいかない」
しばし悩んだ挙句、きっと顔を上げてこっちを見た。
いや。俺たちも、ヨルマをこのまま帰すわけにはいかないんだよ。転移陣の位置を今、イデオンの兵に知られるのはまずい。
と、そこへ廃村の外の森に出ていたらしいアルとカリン、西の鳶の四人がワイワイ話しながら帰ってきた。
「リクも強いが、アルもなかなかやるな。オンサをこんな少人数で仕留めた話は聞いたことがねえ」
「毛皮を持って帰れなかったのは、もったいなかったわね」
「仕方ねえさ、さっさと遺跡の中に行くぜ」
「おーいリクー、いつまでここにいるんだ?魔獣が出たから倒しといたぞ」
そして俺たちの方を見て足を止める。
「あら珍しい、巨人族さん。あなたも助っ人かしら?」
「ゾラ!いつも言ってるだろ。言葉に気を付けろ。失礼しました、駐在武官殿。どうしてここへ?」
「むぅ。エリアスに怒られた」
「君たちは確か……Aランクのパーティーだったな」
なんだ、なんだと集まってきた皆に、ヨルマも少し引き気味だ。
いくら腕に自信があるといっても、この人数と戦闘にでもなれば無事ではいられないからだろう。いや、俺たちとやり合う気持ち自体、薄れ気味のようにもみえる。
一体何がどうなっているんだと、混乱した様子だ。だが、そんなことで悩んでいる暇はない。
「ヨルマさん、俺たちは犯罪行為をしてたわけではない。これからすることも犯罪行為じゃない」
「その言葉を信じたいが……」
「だから、付いてくればいい。その目で俺たちのすることを確かめてくれればいい」
そして、出来ればドラゴン戦の時に力を貸してくれよな。
巨人族の手助けがあれば、ドラゴンを抑え込むのも楽になるはずだ。
「付いて? どこへ?」
「ふむ。では行こうかの。ああそうじゃ。ヨルマもこれを付けておくといい」
リリアナが自分の腕輪をヨルマに渡した。
「私は腕輪がなくとも問題ないゆえ。では遺跡へ行こうかの」
◆◆◆
廃村から出て湖に向かう途中、クリスタが何度も後ろを振り返っていた。
「どうした?」
「いや、すまない」
「かまわねえよ。どうしたんだ?言ってみな」
「ここが……森の民の故郷なのだなと」
「ああ」
「今はだれも住んでいないが、この森は良い所だ。私の故郷はアルハラだから……」
少し拗ねたように口をとがらせて言う。そうか。大人びてはいても、まだ十五歳だったんだよな。
「生まれ育ったところが故郷という訳ではない。のう、クリスタ。帰りたい場所が故郷なのじゃ」
「良いこと言うねえ、リリアナちゃん。私は実は隣国のベルツの生まれなんだけどさ、エリアスたちに出会って西の鳶を結成した村が、故郷かなー」
ゾラが言うと、レーヴィもうなずいて続けた。
「私は生まれたのはガルガラアドですが、母と暮らしたサイラードが故郷のような気もしますし、けれども父と会った今、記憶にもないガルガラアドも故郷のような気がします」
「私は……どこに帰ればいいのだろうか」
「うむ。アルハラとのことに片が付いた後、帰りたい場所を探すのも良いかものう。帰る場所は一つではなくても良かろう。私はいくつもあるのじゃ。生まれ育った山もあるが、果物がおいしかったあそこにも帰りたいし、ラビのところにも帰らねばならぬしの」
「一つでなくとも?」
「うむ。だってそのほうが楽しかろう?のう、リク」
「ああ。今のブラルの家だって、帰りたい場所の一つだな。クリスタも当面、あの家を故郷ってことにしとくか?」
「リクったら、軽ーい。ははは。でもいいね」
ゾラがバシバシと背中を叩いて大笑いする。
「とっとと行くぞー」
「あいあいー」
陽気な西の鳶のやつらに先導されながら湖の魔法陣まで辿り着いた。
魔法陣の場所は砂に埋まって目印もない。正確な場所はリリアナの感覚に任せた。
「うむ。こっちじゃな」
「じゃあ行きますか」
「おー!」
「お前らいったい……」
終始納得がいかない顔のヨルマも一緒に、魔法陣のところまで行く。ここでリリアナが魔力を流せば、魔法陣は遺跡の上階、ドラゴンの出る大広間のそばに行けるはずだ。しかし検討した結果、下から地道に上ったほうが良いだろうということになった。ここは試練の遺跡なのだ。もう一度みんなで正々堂々、石のドラゴンと対面しようではないか。
俺の流した魔力が、砂の中の魔法陣に吸い込まれる。そして一人、また一人と遺跡の中へ転移していった。
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