第25話15話 可愛いは正義☆

 

先程まで揉めに揉めていたが、兄様達もクールダウン出来たのか今は皆で席を囲みお茶をするに至っている。

母様はお茶請けのお菓子に夢中だ。


母様、王様の前なんだし遠慮しなよ……。

確かに王宮で出されるだけあって、美味しいけど。


今日も母様のド天然っぷりも絶好調のようだ。


「すまんな、王妃は仕事が押しているらしくまだ時間がかかるようだ」


王様がすまなそうに謝る。


「いえ、王妃様が忙しいのは分かっています。貴方と違って」


父親が棘を含ませ王様に言う。


「棘のある言い方だなぁ? ちゃんと、自分の分の仕事してるぜ?」


「仕事もしてますが、勝手に護衛も付けず城下を彷徨いたりしてますよね? しかも仕事だって王妃様の十分の一の量です」


父様は王様の言い分を、バッサリ切り捨てた。

客観視した厳しい評価だ。


確かに……ちょっと無茶苦茶な人かもな。

でもそこが人を惹き付けるのか?

豪快な笑顔や行動も、魅力的ではあるだろう。


「王なんて、娯楽がなきゃやってらんねぇよ、なぁオズ? それに俺の周りの奴は優秀な奴が多いからいいんだよ」


「そのお鉢が私に全てまわってきてるんですよ。今まではよくとも、これからは気をつけていただきたい。私には妻子がいるのですから。これからは、残業をするつもりはありません」


王様相手に凄い言いようだが、事実だから仕方がない。

俺としても、あまり残業はしない方向でお願いしたい。


「なんだノロケかよ? ……俺も新しく側妃でもめとろうかな?」


父様に羨んだ目を向け、そんな冗談を口にした時だった。


「側妃? 何を世迷い言を言っているのです、ギルベルド様?」


そこには冷麗な美貌を持った女性がいた。

キリリと冷たい視線を王様に向ける。


「フィーリア、仕事は終わったのか?」


王様は笑って、女性を迎えた。

どうやら王妃様のようだ。

名前は本で読んだ。

フィーリア・ルイリ・ユグドラシア、他国からこの国に嫁いできた王女様でこの国の王妃様。

髪はミルクティー色で、瞳は夕焼けのオレンジ。

そしてこの国一番の才女と称えられているらしい。


「えぇ、勿論です。それよりもギルベルド様、今の発言は何です? 側妃? 既に5人もいる上、王子も王女も足りてます。これ以上は国費の無駄です。何を考えているんですか?」


王妃様はツラツラと冷たくいい放った。

正論過ぎて、反論の余地はない。


「ただの冗談だ、本気にするな!」


王様は少したじろいで言った。

額から汗が滴っている。


王様、尻に敷かれているのかな?

確か王妃様は30才で、姉さん女房の筈だし。


王様がかなりの自由人なので、年上のしっかりした女性の方が合うのかもしれない。


「冗談? 貴方様は王なのですよ? それで付け上がる貴族もいるかも知れません。冗談では済まされません」


王妃様はなおも責め立てる。

今まさに始まろうとしている長い説教。

これには少し同情した。


こっ怖いな。

無表情だし。

軽い冗談みたいなもんだし、公式の場でもないのに。


真面目でしっかりしてはいるのだろうが、あまり融通のきかないタイプのようだ。


「はぁ、悪かったよ。……不用意だった」


王様が折れて謝った。

長い説教を思えば、此方が早々に折れるのが正しい選択であろう。


「いいえ、貴方様は理解していません。この間も」


「もういいのでは? それこそ公爵や夫人達の前で言うことではない。そもそも貴方はリュート魔眼持ちの確認をしに来たのでしょう?」


王妃様がまだいい募るのを遮り、オズ様が言った。

心なしかピリピリしている気がする。


そうか……、オズ様のルートでは悪役令嬢はシュトロベルンの公爵令嬢だったけど、王妃様も乗り越えるべき障害だとか言ってた気がする。

母親にとって道具としか思われておらず、2人の仲は冷えきっている。

それをヒロインが癒すというシナリオだったはず……。


確かに王妃様見る限りそんな感じかも知れない。

俺も彼女からは鉄の女という印象を受けた。

悪い人ではないのだろうけど、仕事以外は不器用そうだ。

人に与える冷たそうな雰囲気で、損している面もあるだろう。


「……そうですね。それでその子は……」


「僕です。お初にお目にかかります、リュート・ウェルザックと申します」


王妃様が俺に目を向けたので、俺は椅子から立ち上がり自己紹介をする。

じっくり観察している場合ではない。


「か、可愛い……(ボソッ)」


予想だにしなかった言葉が聞こえた。

顔を上げて、思わず王妃様の顔をまじまじと確認してしまう。


「え?」


今なんて言った?

なんかあり得ない単語が聞こえた気がする、そうまるで母様達のような。


そう思ったのは俺だけではなかったらしい。


「あ? フィーリア今なんて言った?」


王様が訝しげに聞いた。

言葉ははっきりと聞き取れたが、王様も王妃様がそんな事を言うとは信じられないようだ。


「いえ、何も言っていません」


まるで何事もなかったのかのように答える王妃様。

その表情に不自然な所はない。


いや、言ったよね?

しれっと誤魔化した!?


父様達もこれには微妙な反応だ。


「フィーリア様、お久しぶりです。カミラ・ウェルザックです。」


母様が空気を変えるためか、王妃様に挨拶をした。


「えっ! えぇ、7年ぶりかしら? 元気にしていて?」


「はいっ! こうして可愛い息子にも恵まれました!!」


これ幸いと話題転換に乗った王妃様に、母様はテンション高く応える。


「そうね……わたくしも驚いたわ。これ程の美貌は我国にはいないでしょう。女の子であったのなら、息子達どちらかの婚約者に据えたのだけれど……残念だわ」


王妃様は俺を見て言った。

本当に残念そうだ。


……褒めすぎじゃね?

兄様やオズ様も顔かなり整ってるんだけど。

むしろ攻略キャラに囲まれてら、俺埋もれてない?


自分の顔なんて毎日見ているから、そこまでのものに思えない。

両親が共に美形なので、子である俺も通常より整ってはいると思うが。


「はい、天使なんです!」


そうこう考えているうちに、またもや母様が親バカ発言を繰り出した。


はーはーさーまーっ!?

ここ屋敷じゃないよ?

王様、王妃様の前で親バカ発言はやめれ!

攻略キャラの前で言われるのメッチャ恥ずかしいよっ!?

てか兄様もうんうん、頷くんじゃない!!

2人共、TPOを弁えて!!


これから行く先々で言いふらすのではないかと、俺は心配だ。


「そうですね」


王妃様も同意しないで!?


何だか、段々俺の方がおかしいのではないかと思い始めてくる。

勿論それは錯覚で、母様達が世間とずれているのだけれど。


「分かってくれますか、フィーリア様っ!? 実はこれ先日撮影した写真なんですが……」


そして母様は懐から、本らしきものを出して王妃様に見せた。


あっ、あれは!!

俺の黒歴史!?

やーめーてーーーーーっ!!!


母様は何という爆弾を投下してくれるんだ。


「こっこれは!?」


目を通した王妃様は、驚愕の表情を浮かべる。


「なんだなんだ? 何を見て……これは、」


王様やオズ様も気になったのか、王妃様の手元を覗き込んだ。


「これは……勿体ないな。女であればシュトロベルンとの婚約を破棄して、妻として迎えるものを……」


オズ様がしみじみと呟く。

こうしてばら蒔かれていく、俺の黒歴史。


「そしたら僕が結婚するからね? 馬鹿王子にやるわけないだろう?」


兄様がすかさずつっこむ。

もう何か何だか分からない。


というか俺の意志は何処に行った!?

無視か!?


「可愛いですよね? まさに天使です!」


「あぁ。でもフィーリアは興味ねぇよ。なんせ鉄の女だからな!」


王様が何気なく言った。

俺もさっきまではそう思っていた。 

だが、この人は──


「陛下っ! デリカシーが有りませんよ! 女の子は可愛いものに弱いんです!!」


母様が断言した。


「いっいや、お前達女の子って年じゃ」


「レディーに年の事を言うなんて!? デリカシーが無さすぎです! そう思いませんか、フィーリア様っ?」


母様の勢いは止まらない。

父様はニコニコとそんな母様を見守っているだけ。

王様は孤立無援だ。


立場は王様の方が上なのに……。

意外に王様ってヘタレ?


「えっ、えぇ。……それにしても本当に可愛い(ボソ)」


王妃様も母様の勢いにたじたじだ。

それでも写真は離さないが。

この人、しっかりはしているが趣味は母様と同じだ。


「……フィーリアは普段、王妃として完璧に仕事をこなしているからその反動か? フィーリアとの間には娘はいないし……」


王様は王妃様を見て呟く。

此処に来て、王様も漸く王妃様の気持ち可愛いものが好きを悟ったらしい。


確かに、王族の系譜を見る限り、正妃との間には王子二人しかいない。

女の子が欲しいと思っていたのかもしれない。


「可愛いは正義なんです!!」


母様がぶっ飛んだ発言をかます。


「そっそうか、……でもそうだな、フィーリアにもガス抜きが必要かもな。なぁ、リュート」


あれ?

なんか嫌な予感が。


王様の視線に嫌な予感が止まらない。


「これからはたまに、フィーリアに付き合ってくれないか?」


やっぱりかっ!

予感的中だよ!!


俺としてはすぐに断りたい。


「ほっ本当ですか!?」


王妃様、ちょっと嬉しそうだよ。

喜びを隠しきれていないよ!

さっきまでの無表情キャラは何処行った!?


あまりに嬉しそうなので、駄目だとは言いにくい。


「王妃にも気分転換は必要だろ?」


王様は優しく微笑んだ。

まるで“主婦にもたまには休みは必要だろう?”って言ってあげる良き夫のようだ。


「陛下っ! フィーリア様良かったですね!」


「えぇ!」


王妃様も嬉しそうだ。

王様も満足げだ。


でも、それは俺のプライドと引き換えだからなっ!?


誰か俺の心からの叫びを聞いて欲しい。


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