第30話「これはペンですか?」「いいえ私の大胸筋です」


それは刹那の闘争だった

宵闇から忍び寄る悪意


罪人の額に汗が浮かぶ

握りしめた拳が熱を持つ


叫びだしたい程の恐怖を押し殺して

罪人は歩調を速める


ただそうするしかなかった

嵐に怯える子犬のように


その絶望の前では

唯唯無力な存在へと成り果てた




罪人は問う

これは私の罪なのかと


悪魔は答える

いいや万民への罰なのだと


己の眼前に漆黒の闇が広がる

あぁなんて恐ろしいのだろう


腹内がぐるぐると音を立てている

腹痛を抑えて漢は走り去る


それは生命への冒涜だった

恐怖と絶望を塗り固めた汚物であった

醜悪な光景に己自身めまいがする


助けてほしい

こんな絶望はごめんだ


漢は叫んだ

けれど誰1人救ってはくれぬ


あぁこのまま朽ち果てるのか

絶望にくれる漢は

もがきながら手を伸ばしたその時




光が その手をつかんだ

それは紛れも無い救済だった



絶望からの解放

ほんの一時の快楽

罪人は安堵した


悪臭を排泄するという悦楽にひたる


だが悪魔がこのまま引き下がるか

否、そんなはずは当然ない


漢の余韻は困惑へと変わる

困惑は次第に恐怖へと変わった



安堵した戦士は再び絶望する

それは紛れも無い絶望だった


あまりの恐怖に身体が震えるのを止められない

悪魔は漢を苛まし続ける


これは絶望だった


筋肉戦士は己の命運を覚悟する

そうしてそっとつぶやいた



トイレに紙がないやん、と

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異世界筋肉大行進〜マッスルマーチ〜 紅葉 @kawasemi3

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