30.補習の惨事
ウィルの瞳は閉じていた。
――柔らかい、温かい、どう考えても人の唇だ。
すっと離れる顔、目を開けた彼は笑う。
「なに、目ずっと開けてたの?」
「今の――」
「キス。初めて?」
(――軽い!! チャラい!)
リディアは拳を握りしめて、 彼の目の前に秒速で繰り出す。うわっと仰け反る魔石盤上の彼の手は離れないようにぎゅっと握りしめる。もちろん、拳は寸止めだ。
「まじ、マジ怖えー!」
「ったり、まえでしょ」
殴ったら、暴力で停職になってしまう。――キスごときで。
(キスごとき。――でも――悔しい!!)
ひっぱたくぐらいは許されるはず。でも学内ではだめか。学外ならどうだろう。
「だって、先生煽るから」
「だれが!」
「――無意識かよ。ちょいエロくて」
「エロい!? 誰が!!」
「んで、そうやってムキになると可愛い」
いきなりボソッと言われ、不覚にも言葉を飲んでしまう。まるで本音のように聞こえた。
「とにかく! キスぐらいでは騒がないけど、二度としないで! だいたい、測定中――」
そう、測定中に。
見下ろした魔石は、発光をやめていた。代わりに石の中に、内包する光りが明滅している。
「待って! もうダメ!! やめて、やめてっ」
「は、え?」
「魔力を注ぐのやめっ」
「そんなこといっても――」
(明滅するのは、水、土、風、金、そして――火っ!!)
最後は火だ。反応は遅かったくせに、大量の熱を内包している。
ウィルの手を握りしめたままぐいっと彼の体を引き寄せる。
「ちょ、先生」
”金の盾、水の盾、風の盾、重なれ重なれ重なれっ!!”
彼を背にかばう。だめだ、このままじゃ、爆発する。もう取り返しはつかない。
魔石は魔力を溜め込むことができる。
だが強大な力を注げば――強大な破壊力を持つ爆発物となる。ここまでの純度の高い魔石と、強大な魔力がなければ、なされなかったこと。
魔石から溢れた光が、視界を染め上げる。
(防護壁は、作動している?)
リディアは、顔を上げて周囲を見渡した。窓が――開いている。
(どうして――)
ウィルが、暑いと言って服を脱いで、あの時、窓を開けていた?
これでは、完全な防護室にはならない、外に被害が――及んでしまう。
“風よ、風よ、風よ、壁を作れ、道を作れ、すべての魔力を――私の元へ!!”
ウィルを突き飛ばす、すべての魔力の影響を自分に向かわせる。
爆音、そして爆風、それから熱を感じた。なにかが被さってくる。
(まだ、まだだ!――)
水魔法と風魔法を再度部屋全体に巡らすと、すべての音が消えた。
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