2.過去の事情

 ディアンの部隊が配置場所に到着するのを待ちながら、リディアは暮れゆく空を見上げた。


(日没までに、終わらせないと)


 建物上方にある、細長く空いた隙間のような当時の窓にあたるものが光源になる。

 古い、五百年くらい前の建築だろうか。だから窓も大きくないのだろう。


 視界不良は、今回のような混成部隊には不利となる。

 見慣れない仲間を、敵か味方か判断する認識が難しくなる。


 ――ここは、東国境にほど近い辺境の村ヴィンチ。

 

 戦争で百年前に隣国領となり、十年前の小競り合いで国境線が引きなおされて、本国の領土に戻った。

 しかし住民はほとんど去った後で、廃墟と化していた。

 

 だがここ最近、国教正統派という、現在の国教に対して原点回帰を主張する一派が、略奪など過激活動を行うようになっていった。


 その彼らの点在する拠点のひとつが、このヴィンチ村。


 リディアの所属する魔法師団は、彼らを捕らえよという王の命令で村を制圧し、残る敵は旧集会所に立てこもる者たちのみ。

 

 そして今回は第一師団ソード第二師団ランス、そして第三師団シールドの混成部隊で過激派の集会所立てこもりの攻略に当たっている。


 特級魔法師グランマスターであるディアンは第一師団ソードの団長。


 そして、リディアは、第三師団シールドの団員。


 シールドの団長は、外交に赴く国王の警護中。

 副団長は今回の村の制圧時に、爆弾により重傷を負い搬送。


 急遽、リディアが総指揮をとることになったのは、この領土がシールド管轄で、リディアが特級魔法師グランマスターだからだ。

 

 師団では、作戦により指揮官を変える。

 いつ上が死ぬかわからない案件を受けることも多いため、様々な経験をしておくこと。さらには、相手側にその時の指揮官を特定させないためでもある。


 ただし経験不足で未熟なものに命を預けたいと思うものなんていない。


 だからこそ、仲間であり部下でもある彼らには、まずいちばんに信用されることが必須。そして従わせるだけの力がないといけない。


 ただ――得意ではない。

 


 ――リディアが、この戦闘集団にいる理由、特級魔法師グランマスターに認定されている理由、それはある特殊性によるものだ。

 

 かつての文明は、魔法の黄金時代と言われていた。

 

 しかし、千年前の大陸全土にわたる大戦によって、人類はかなりの数を減らした。


 国が起きては廃れ、統合し、また分断される。

 そして、ようやく国境線がほぼ定着し、人類が大陸に数を増やし荒れ果てた大地が回復する頃には、かつての魔法の大部分は忘れ去られていた。


 この百年はようやく過去の魔法を少しずつ解明することができ、今では魔法は六系統の「木・火・土・風・金・水」に大別されている。

 

 そして、その六系統とは別に死と生を司る魔法を入れて、八系統としている研究者もいる。


 ただ、この生と死の魔法は、あくまでも概念上のものだけと言われていたのだ、数年前までは。


 魔法学校にいた八歳の時、リディアは死から人を救った。

 実在しないと言われていた、蘇生魔法を発現したのだ。

 

 それによりリディアは、世界で唯一の蘇生魔法の使い手として特級魔法師グランマスターに認定され、半ば強制的に魔法師団に入団させられた。  


 ――その他の魔法の能力は低く、このエリート戦闘集団に入る力は到底なかったのに。


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