第6話 異変

「お前、もしかして……梅……」

 

 無情にもつつがなく終わってしまった朝礼の後、息を潜めて退出しようとしたのに新人に見つかってしまった。瞳孔を広げた眼差しと、挑発的に上がった口の端。

記憶の底の悪夢が具現化しそうで、呼吸が止まりそうだ。


無言で一礼をして踵を返す。

もはや無意識の行動だった。


「おい」


 背後の声と同時に右肩をつかまれる。

 思わず「ひっ」と声が出た。情けない。


「新人君、先輩に何か用かい?」


 紫草先輩が間に割って入った。


「いえ、その知り合いに似ていたものですから、つい」

 妙に礼儀正しい言葉遣いですら、罠にしか聞こえない。


「そうか。だが仮にそうだとしても、ここでは彼の方が先輩だ。言葉には気をつけるように」

「……はい」


「では改めて。梅郷先輩」

 僕の名字を正確に言い当てるだけでなく、名字の部分を強調して呼ぶ新人。

 やはりあいつか……。

 背を向けていたが、正面切って来られては無視はできない。絶望的な気持ちで退治する決心がつかないまま振り向く。


「……」

「話があります。終業後、時間はありますか?」

「それは……」

 考えるんだ。こいつを追い払うに適当な言い訳を。

 心配そうにこちらの様子を伺っている紫草先輩を納得させるような理由を。


 グウォン。ゴゴゴゴゴ。グォーン。

 その時、辺りを揺るがすような轟音とともに、地面が大きく揺れた。


「なんだ?」

 新人も急な揺れに、腰が引けている。

「地震か?」

 紫草先輩はさすがに落ち着いた様子で、壁に手をついている。

 

 揺れが長すぎるだけでなく、大地に響き渡るような轟音が近づいてくる。

 これは本当に地震なのだろうか。


 グォーン。

 一際大きな音がしたかと思うと、突風に身体が薙ぎ払われる。

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 同時に頭上が急に高くなる。

 いや、無くなったのだ。

 天井が吹っ飛び、剥き出しになった屋内から初めて外の様子が分かった。


 外には見たこともないような、高層ビルより遥かに巨大な幾つもの首をもった大蛇が蠢いていた。

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