第9話 無力

「どうして……」


 予想外の結末に、慌てて防人たちは身を隠す。

 紫草先輩に引っ張られて、強制的に砕けた壁際に座らされる。


 あの登場の華々しさはなんだったのか……そう思わざるをえない。

 

 いや、感慨にふけっている場合ではない。

 目の前の恐怖は再び現れ、確実にその存在を増したのだ。


 獲物を屠ったことに恍惚としたのか、大蛇はひときわ大きな咆哮を上げると、一気に炎を吐き出した。自分を中心に円を描くように周囲を焦土と化していく様は、昔見た怪獣映画のようで、まるで現実のものとは思えない。先輩に先導され、目立たないよう音を殺して移動し、大蛇から距離を置いていく。頼みの女神も、いつの間にか姿を消していた。


 その間にも火炎攻撃は続き、逃げ遅れた人々の悲鳴が耳に届く。


「……!」

 腰の剣を手に、大蛇に向かおうとする僕の肩を先輩が抑えた。

「何をする気だ?」

「僕が注意をひきます。その間に皆を……」

「あいつの攻撃は未知数だ。注意を引いたお前を瞬殺して、殺戮を続ける可能性の方が高い。無意味だ」


(確かに……)


 対人戦闘はともかく、それ以外の攻撃対象を想定したことがない僕たち防人にできることは限られている。


「神ですら斃された相手に、僕たち人間に何ができるというんだ!僕たちは一人でも多く生き残って、神々のなさることを支援するのが本来の在り方ではないのか?」


 返事の代わりに、僕は大蛇に背を向け移動を再開した。

 何も言わずに、先輩も続く。

 止むことのない攻撃の中、容赦なく降り注ぐ瓦礫や炎を避けながら、ただ生きることを目指した。


 どのくらい時間が経過しただろう。

 遠くで再び咆哮が聞こえたかと思うと、急に攻撃が止んだ。


 満足したのか、大蛇はゆっくりと進み始めている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます