第8話 神の力

 真打登場とばかりに現れたその神は、細身ながら筋肉質-まさに均整が取れた見事な肉体美をもっていた。羽の下に透けて見える煌びやかな鎧も神々しさを増幅し、何より大蛇よりもはるかに小柄なのに、見ているものに不安を与えないほどの圧倒的な存在感がある。 


「ミカヅチ様! さすがです!」


 新人の天地が遠くの壁の陰から身を乗り出し、調子のよい言葉で神を煽てる。

 ミカヅチと呼ばれた神は、余裕の笑顔で視線をよこし、これに応じた。

 遠方ではっきりとは確認できないが、眉目秀麗であることだけは遠目からでも分かった。まさに主役の風格と余裕だ。

 

 同時に周囲から歓声が沸き上がった。

 諦観と恐怖で青ざめた防人たちの顔から不安が消え、笑顔すら見える。

 現金なものだと思いつつも、僕自身も不安よりも、このミカヅチという神の力を見てみたいという好奇心のほうが勝ってくる。


 そんな僕たちの気持ちを知ってか知らずか、ミカヅチはこちらに軽く手を振ると、正面に向き直り、大蛇に向かって鉾のような武器を構えた。


 大蛇は新しい獲物に狙いを定めると、幾つもある首を一気にミカヅチめがけて襲い掛かった。

 ミカヅチはひらりひらりと攻撃をかわしていく。

 そして縦横無尽に大蛇の周囲を駆け巡った。

 大蛇も首や尾を何度も地面に叩きつけては、ミカヅチに向かっていく。


「ミカヅチ様、一気にやっつけてください!」

「ミカヅチ様、お願いします!」


 天地に加え、他の防人たちも口々にミカヅチ神を応援する。

 防人たちの視線は、完全にミカヅチが独占している。


 もう安心だ。


 声に出さずとも、僕たち防人の間で意識が一体となったのを感じる。

 それほどにミカヅチの動きは素早く、大蛇を翻弄していた。

 大蛇の眼中には、もう僕たちは存在していないに等しい。


 そこに、僕たちの上司である女神も現れた。

 

 そういえば、この人……いや神もいたのだ。

 すっかり忘れていたが、やはり神だ。自分だけ安全を確保するのを良しとせず、僕たちを助けに加勢に来たのだ。


 女神はミカヅチと同じ高度まで飛び上がり、目と目を合わせる。

 何かを読み取ったのか、きりりと真剣な顔つきになったミカヅチは、手にしていた武器を一気に振りかぶる。


 正直に言うと、僕は「神」という存在を目の前にしても、その力も崇高さもどこか半信半疑だった。あの悪夢が影響しているのは間違いない。それでもこうやって、力を目の当たりにすれば、認めざるを得ない。崇拝されるには根拠があるのだと。


 ……これでゲームセットか?


 武器と大蛇の間に、大きな光の玉が生じ、そこから激しい火花が飛び散った。

 あまりの光の強さに目が眩み、思わず瞼を閉じる。

 その間、金管楽器と鐘の音が合わさったような大きな音がずっと鳴り響いていた。

 耳慣れない音と光のまぶしさが、現実のものとは思えない。


 音が静まり、瞼の奥まで届いていた光が影を潜めて、ようやく僕は冷静さを取り戻した。


 そうだ。僕たちはこの行く末を見届けなければならない。

 守るべき民のために。


 果たしてミカヅチは、大蛇にとどめをさすことができたのか?

 慌てて僕は目を開く。


 期待と予想に反して、姿を消していたのはミカヅチの方だった。

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