ロジウラ


 白い部屋を出るとそこは真っ白な廊下だった。

 光の強い照明は白い壁に反射し、ゴミや埃が何一つとして無いことを私の目に焼き付けていた。

 リーゼは強い光から目を守るように手を翳し、真っ直ぐ伸びる廊下を何も言わず歩いた。

 途中、廊下の脇に扉があり、その向こうから獣のような唸り声や鳴き声が聞こえたり、逆に何も聞こえ無かったり、耳を押し付けてやっと聞こえるような小さな音がしたりと、不気味な雰囲気がした。



 どのくらい歩いたのだろうか、暫くすると鍵のついたボロボロに錆びた鉄の扉に突き当たった。どうやらここが出入口らしい。

 リーゼは鍵を一つも持っていないし、外には出られないと思い、項垂れた。すると、ドア枠と鉄の扉との間に僅かな隙間があるのを見つけた。なので、リーゼは虫が嫌いだったが、夏によく家の中に甘い物を求めてやってくる小さな蟻に変身して隙間から建物から出て、すぐに元の姿に戻った。

 そして周りと自分を見て、気付いた。


 ・私は学校の制服を着ていた筈なのに、何故か今着ているのはクローゼットの奥底にも無いであろうリーゼの持っていない服だということ。


 ・リーゼの持ち物は学校の書類の端切れさえも無かった。


 ・リーゼがついさっきまでいた建物はただの廃墟にしか見えなかった。


 スマホが無いのでGPSで自分の居場所を確認することも出来ない為、少し今いる道を歩いてみた。

 それにしてもこの道はとても狭かった。建物と建物の間に偶然出来た隙間のようで、路地裏というのだろう。

 少し歩きながら建物の上の方を見上げて光を探したが、日が暮れたばかりのような至極色をしていた。こんなに帰りが遅くなったんだから、親は心配しているだろうか……。それともまだ仕事中なのだろうか……?

 こんな事を考えるだなんてやはり私はまだまだ子供なのだろう。先生達やクラスメイトには「リーゼって大人っぽいね」とたくさん言われてきたから私自身殆ど大人なのかもしれないだなんて考えていた。そう言えば、レックスだけは私の事を「辛い事とか大変な事を1人で背負い込んで、まぁ殆ど上手く済ませていってるけどさ、それは大人っぽいんじゃなくて子供っぽい事で、上手く周りの人を使って頼るのが本当の大人なんだよ〜」ってニコニコ笑いながら言っていた。

 街灯の白い明かりが私の視界を照らした。

 そのスポットライトの下に一歩踏み出すと、もうそこは路地裏ではなかった。

 そしてその街灯の近くの建物を見ると、それは私の家だった。

 街灯の光の中から出て、玄関へ行き、家のドアをいつも通りに開ける。


「ただいま。」

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