第24話 アメイラの謎

「何なんだよ、何で俺ばっかりこんな目に合わなくちゃいけないんだよ」


 小石を蹴飛ばして大通りを歩く。人混みを避けるように端っこを歩いているが、それでも人が多すぎる。肩がぶつかるたびにイライラしながら、俺は宛もなくブラブラしていた。


 理由は一つ。宿に帰りたくないからだ。


 ホムンクルスには何を言われるかが分からないし、フレイには顔向けも出来ない。俺はまた逃げの思考で動いていた。


「でも、本当どうすればいいんだよ」


 もしエルフたちが、解呪の魔術を編み出せなければ、セリアは死んでしまう。それは嫌だ。だけど、自分から何かをしようとしても、失敗に終わってしまう。


 考え事を打ち切るために、途中で屋台によって焼き鳥を買った。それを食べながら更に通りを進んでいくと、日が沈み始め、辺りは夜の帳に包まれた。同時に、時間の経過に合わせて人通りも目に見えて減りだし、今では歩くのに不便が無いほどだ。


 天然の光が闇に食われ、人工の灯りが照らす通りの端に何となく目をやった。本当に意図はなく、ただ単に視線が移っただけだ。だが、移った視界は、路地裏に入っていく一人の人間を捉えた。


 あれは······アメイラか?


 服装は謎の神官服じゃないし、何より辺りが薄暗いため、よく見えない。だが、十日間一緒にいたアメイラを、見間違えるはずがない。何でアメイラが路地裏に?それだけが心配だ。不安だ。


 よし、追いかけるか。


 という訳で、アメイラの後をこっそりつけることにした。人混みから抜け出して、アメイラが入っていった路地裏への入り口に足を踏み入れる。


 幸いというか何と言うか、アメイラは尾行されているとは思っていないらしく、足音も殺さずに進んでいるようだ。だからこそ俺みたいな素人でも見失わずにいられるのだが······路地裏なんだからさ、もっと気を付けてよ。


 建物が乱立し、入り組んだ迷路を形成している路地裏。故に、小さい音ですら拾って反響させてしまうのだろう。現に、今も曲がり角の先から、アメイラの足音が聞こえてくる。


 その後数分間尾行を続けると、アメイラはある建物の前で止まった。無骨な作りで、装飾一つない建物。そのドアに、変則的なリズムのノックをするアメイラ。暗号だろうか?


 そうこうしているうちに、開かれた扉から出てきた男に促されて、アメイラは中へと入ってしまった。慌てて後を追い掛け、扉に耳をつける。


『約束の日だ。金は持ってきただろうな?』


『はい。持ってきました』


 ん?

 何の話をシテイルノカナ?

 路地裏で、暗号で、金って。やばいだろ。アメイラ、何してるんだよ。


『ふん。なら、さっさと金を出せ。それがお前のするべきことだろう?』


『これで全部です』


『一、ニ、三、四、五••••••十三。確かに全部だ。受け取った』


『なら、早く下さい』


『分かってるさ。ほら、お前のだ』


 何かを投げるような音が聞こえた。


『ありがとうございます』


『おう。次はいつだ?』


『一ヶ月と二週間後です』


『それまでに準備しておこう。では、また』


『はい』


 あっ。話が終わったっぽい。急いで隠れないと!!


 何処だどこだ······っと、ここだ!

 大きな樽の影に身を潜めると同時に、アメイラが建物から出てきた。その表情は、何故か嬉しそうだ。何をしたんだ。


 終始スキルが反応しなかったから、精神的な余裕があった。だけど、路地裏での取引なんて、ろくな物じゃないだろう。正直に言って怖い。


 アメイラが過ぎ去るまでジッとしているつもりでいたが、路地裏は少しばかり埃っぽすぎた。鼻の中に埃が入ってきて、くしゃみを抑えることができない。


「はっ、はっ···ハックしょんっ!!」


 あ。驚いて肩を跳ねさせたアメイラと目があった。やばい。バレた。でも、まだスキルさんは何も言わない。なら大丈夫だ。


「シオン君、ですよね?」


「そうだけど」


 アメイラは謎の店で謎の取引を。俺はアメイラのストーカーを。互いにやましいことへの自覚があるから、会話がぎこちない。


「まさか、聞いてました?」


「いや、そんなこと」


 ないよ。


 そう言って誤魔化そうとしたが、アメイラの普段からは考えられないような陰鬱な表情に気圧され、口をつぐんでしまう。


「そうですか。聞いてたんですね···」


「あ、ぁあ。その、悪気は無かったんだよ。アメイラが路地裏に入るのが見えたから、つい心配になってさ。それで〜〜〜」


 一旦思考が落ち着けば、口は面白いように回った。保身のためにあることない事、滅茶苦茶なことを言ってアメイラを納得させる。


「そうですか。あの、シオン君!このことは、皆には内緒にしてもらえませんか?」


「は?そんなの俺に聞かないでよ。巻き込まれるとか嫌だし」


 我ながら最低なやつだ。さっきのホムンクルスやフレイとの会話が効いているとはいえ、流石にありえないだろう。当然アメイラは気難しそうな顔になり、そして何故か笑いだした。


「は?どうしたんだよ?」


「いいや。いつも自分ばっかりなところが、シオン君らしいなと思ったんです」


 そう言って目尻を押さえる様子は、いつも通りのアメイラだ。


「ほら、もう俺帰りたいんだけど。行こうぜ。誰にも言わないでやるから」


 正直、アメイラの抱える何かを知りたくなかった。だから無理やり話を打ち切ろうと下のだが、返答は予想外だった。


「いいや!シオン君。よければ、私の家まで来てくれませんか?」


 はい?

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