第25話
そこには眠い目を擦っている月夜の姿が立っていた。
「……うぅぅ……なに? どうしたのぉ~?」
「あっ、月夜ちゃん起こしちゃった?」
「……うん」
慌てて月夜の元に志穂が駆け寄っていく。
月夜はぼーっとしながら椅子に座ってプリンを食べている狐鈴の方を指差した。
ドキッとしながら志穂と一也は生唾を呑み込んだ。
「……プリン」
その言葉を聞いてほっとしたのか、一也が徐ろに口を開く。
「ほら志穂。その子と一緒に風呂に入ってきたらどうだ?」
一也がそう告げると、志穂は一也の元へ歩み寄り一也の服を掴むと、強引に耳を自分の方に寄せた。
「狐鈴ちゃんはどうするのよ……? 月夜ちゃんと狐鈴ちゃんを一緒に出来ないでしょ!?」
「ああ、それは心配いらねぇーよ。狐鈴は俺が風呂に入れるから」
「そんなの許可出来るわけ無いでしょ!? なにが心配するな。よっ!」
激昂している志穂に少し呆れながら一也が言葉を返す。
「たかが風呂ぐらいでなにカリカリしてんだよ?」
「なっ!? なに言っているのよ! 男女でお風呂に一緒に入るなんてありえないでしょ!? どうして一也は平気な顔してそれを提案出来るのよっ!」
志穂は指差しながらそう言い放つ。
それに対して一也が頭を掻きながら呟く。
「いや、んなこと言っても。お前とだって子供の頃よく一緒に風呂入ってただろ? そういうことじゃねぇーの?」
「それは子供の時だから許されるの! 今は子供の時とは違でしょ!?」
「……ならどうすんだよ」
一也がそう尋ね返すと、志穂は思わず口を噤む。
だが志穂が心配するのも最もだろう。小学校低学年ならまだしも、高校生と小学生位の女児が一緒にお風呂に入ると言うのは普通に考えてあまり良い選択とはいえないだろう……。
そんな志穂に対して一也がゆっくりと口を開く。
「大丈夫だって、前は狐鈴と一緒に風呂に入ってたんだからよ」
「……むっ!」
志穂は一也を睨むように見つめると耳元で小さく呟いた。
「もし狐鈴ちゃんになにか間違いを犯したら、一也でも許さないから……」
その殺気を含んだ声色に一也は静かに頷く。
それを確認して志穂は微笑みを浮かべると、きょとんとしている月夜の手を引いて脱衣室へと向かった。
一也はそんな彼女の背中を見つめながら気が抜けたように「間違いってなんだよ……」っと呟いた。
それからしばらくリビングで本を読んいると、廊下から月夜が飛び込んできた。
濡れた短い白髪を揺らしながらピンク色のパジャマに身を包んでいる。
月夜はソファーに寝転がっている一也の目の前に来ると、頭を激しく左右に揺らし髪に着いた水滴を辺りに撒き散らし始めた。
「うわっ! な、なにしてんだよ!!」
一也が突然の月夜の行動に慌てふためいていると、そこに志穂が飛び込んできて月夜の頭にタオルを被せる。
「こらぁ~! ちゃんと髪を乾かさないとめっ! でしょ!?」
「……むぅ~。ほっといてもそのうち乾くよ」
「ダメです。女の子なんだからもっと髪には気を使わないと!」
「……うぅ~」
志穂に促され、頬を膨らませながらも渋々椅子に腰を下ろした月夜の頭を、志穂がタオルで丁寧に拭いている。
一也は本当に志穂は面倒見が良いと、関心しながら横目でそれを見つめていた。
志穂が月夜の髪をドライヤーで乾かし始めると、一也は立ち上がり歩き出す。
「ちょっと、どこ行くの!?」
「ああ、風呂だ風呂!」
「主様! 妾も行くのじゃ!」
じっと一也の隣に座って居た狐鈴が勢い良く立ち上がり、その後に続く。
2人は脱衣室に入ると、服を脱ぎ始めた。っとその時、狐鈴が関心したように声を上げる。
「おぉ~。この着ぐるみパジャマというのは脱ぎやすいのう!」
「そりゃ上下一緒だからな。当たり前だろう? っと言うか、お前はいつも着物で大変じゃないのか? もしお前が欲しいなら服を買いに行ってやるよ」
上半身裸になった一也がそう告げると、狐鈴が不敵な笑みを浮かべ言葉を返す。
「無理するでない。主様が妾の下着を買う時も大変ではないか」
「それは、俺みたいな男が幼児用の――しかも女児のパンツを買うって言うのはそういうもんなんだよ!」
「だから妾は履かなくても良いと言っておるのじゃ、なのに主様は……」
狐鈴が不機嫌そうにそう言うと一也が声を荒げる。
「ダメに決まってるだろう!」
「……昔は下着なぞつけぬのが当たり前だったのじゃが、時代が変わるとよけいな風習も増えて困ったものじゃのう」
感慨深げにそう呟いている狐鈴を脱衣室に残し、一也はそそくさと浴室の中へと入って行った。
それに気付いた狐鈴も後を追いかけるように慌てて服を脱ぐと浴室へと入る。
浴室の中で一也は狐鈴をプラスチック製の椅子に腰掛けさせると、その銀色に輝く髪を洗い始めた。
狐鈴は気持ちよさそうに上機嫌で一也に話し掛ける。
「のう主様。なんだかこういうのも久しぶりじゃのう!」
「ああ、そうだな……」
「……主様?」
心配そうにそう聞き返した狐鈴に、一也が重い口を開く。
「――なあ、狐鈴。鬼神同士で争うことは考えられるか?」
「う~む。難しいのう、鬼神といえど個人じゃ。お互いの利害が異なれば戦闘となることもあるかもしれん。じゃが……」
狐鈴は一也の方を振り向いて徐ろに言った。
「本来鬼神は天界からの要請で決まる。主様も鬼神になる前に天界に呼ばれたであろう?」
「ああ、あの真っ白な世界な……」
一也はそう呟くと、思い出すように浴室の天井を見上げる。
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