第7話【オッサンの告白、魔王の告白】
あれから俺は三度買出しをさせられていた。
一度目に買って来た菓子は気に食わないと突っ返され、二度目にこれでもかと色々な菓子を買って帰ると、今度は飲み物が欲しいと言われる始末。
どこまで我儘なんだと憤る反面、一緒に買ってくるという気配りが足りんと言われ、ぐうの音も出なかった。
そんな我儘魔王は今、大量の菓子に囲まれて悠々自適に食いまくっている。
「ふむぅ……人間の菓子も中々どうして捨てたもんではないのぅ……」
一種類ずつ食べれば良いものを、コイツは全部少しずつ食べるという暴挙に出ていた。
おまけに食い方が汚い……。ポロポロと食べカスが魔王の身体やベッドに落ちていく。
俺は早く消費させようと、手近な菓子に手を伸ばすが――
「たわけ、コレはワシの菓子じゃ。何を勝手に食べようとしておる」
目ざとく見つけた魔王が俺の手を叩く。
「いや、少し位良いだろ。と言うか買ったのは俺だろ!」
「だ〜めじゃ。そうじゃのう……どうしても食べたければ、ほれ、言う事があるじゃろぅ?」
口いっぱいに頬張りながら上から目線で言ってくる魔王。コイツ……どれだけ調子に乗るんだよ!
「どうした?ほれ、いらんのならワシが全部食ってしまうぞ?」
「はー……もう好きにしてくれ」
別にそこまで欲しいわけでもない。黙って退散する事にした俺に、魔王が追い打ちをかけてくる。
「なんじゃツマラン。ホントにお主はツマラン奴じゃのう」
その言葉に、頭がカァッと熱くなるのを感じた。「貴方は退屈な人」あの日、あの女に言われた言葉が、あの情景が、呪いのように再現される。留めていた俺の何かが、堰を切ったように溢れ出す。
「うるさい!お前に何がわかるんだ!!何も知らないくせに偉そうにしやがって!!封印を解いたのは俺だぞ!!お前は黙って俺の復讐につき合えば良いんだよ!!」
カッとなった俺は、思わずそう口にしていた。気が付くと今までの我慢を無駄にするかのように、魔王を罵倒していた。
「だいたい何なんだお前は!起きたくないだの働きたくないだの、我儘ばかり言いやがって!!何のために俺が15年もお前を探したと思ってんだ!!
お前の役割はそんな事じゃないんだよ!ぬくぬくと玉座に座るアイツに……アイツらに後悔させてやるんだよ!!俺を捨てた事を!!取り戻すんだよ!俺が貰うはずだった名誉を!栄光を!!」
目が熱い……気付けば俺は泣きながら叫んでいた。そうだ、アイツらに復讐しないと、俺は……俺は何処にも行けないんだよ。
魔王は何も言わず、黙って俺を見ている。さっきまでとは違う、底の知れない深い瞳で。
菓子を食べる音も無く、荒い俺の息遣いだけが耳に響いてくる。
「のう、お主」
不意に、魔王が今までとは違うどこか悲しげな声で口を開く。
「ワシは知っての通り魔王じゃ。人間とは相容れん存在じゃ。奴等は魔王と知ればそれだけで攻めてくる。ワシの都合などお構いなしにな」
「そう、相容れないんだよ!だったら――」
「まぁ聞け。無論お主の気持ちも少しは分かる。裏切り、捨て駒、そんなものは魔族にも良くある話じゃからの。じゃが――」
一呼吸置いて魔王が自分の考えを話していく。
「じゃが、その先に何がある?今や強大な国を納める王を討ったその先は。人間全ての敵となるか?孤独な魔王として独り討たれ消えていくか?」
「あぁ、それで良い。奴等に復讐さえ出来れば、後は知ったこっちゃない」
「ならばそんな復讐、お主独りでやれば良い。そんなものにワシを巻き込むな」
「だからっ!独りだと無理だからお前を……」
「そうして、事が終わればワシを残し去っていくのじゃな?それはお主を捨てた勇者共と何が違う?同じであろう」
魔王が、聞き捨てならないことを口にする。俺が、アイツらと、一緒?
「違う!俺は、俺は……」
「何も違わんよ。お主は自分の都合でワシを使い、用が済めばワシを捨てるんじゃ」
魔王の言葉に、冷水を被ったように急激に頭が冷めてくる。俺は、アイツラと同じ……。
「いや、お前はその後人間を、世界を自分のモノにすればいいだろう!それがお前の望みだった筈だ!」
そう、だから俺達は魔王と敵対したんだ。平和の為、封じる旅に出たんだ。
「ワシはそんな望み、最初から持っておらんよ」
なんだと……。魔王が、世界を望んでいない?
「いや、ワシだけでは無い。魔族とて大半はそんな事を望んではおらんかった。あれは人が、違う隣人を許容出来なかった、それが発端じゃよ」
魔王の言葉に、今まで積み上げてきたモノが、ガラガラと音を立て崩れていく。
「あえて言おう。ワシは復讐なぞ望んではおらんよ。封印されるなら、それでも良かったんじゃ。じゃからの――」
そして魔王は、ハッキリと口にする。俺が聞きたくなかった言葉を……
「お主の、そんな復讐には力を貸せん」
辺りに静寂が戻ってくる。魔王は復讐を望んでいない……。そしてハッキリと、俺には力を貸せないと言い切った。
それでも……それでも俺は――
全てを奪われたおっさん、魔王の封印を解くも盛大に二度寝される @shirahuku
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