第22話【雪の花2】

 あの日は、なんとなく誠也に対して罪悪感があった僕。誠也の気持ちを知ってるがゆえに僕は舞花に本気になってはいけないと自分の気持ちを封印していたところがあった。舞花が、僕の手を握って来た時に、僕の封印は見事に解かれ、僕と舞花の心が繋がった。

 僕はあの時、手を握り返せずにいた。ちょうどこの辺りだった。あの日は雪ではなく冷たい雨だった。傘をさしながら歩いていると冷たい雨が傘を持っている手まで跳ね上がって来る。かじかんだ手を温めるのは片方の手とポケットだけ。僕は舞花が握ってくれた手を自分のジャケットのポケットに入れた。舞花が僕の肩に寄り添って来てくれた。この時、僕は自分の本当の気持ちに気付いたんだ。


“僕は舞花が好きだ!舞花を愛している!”


僕のポケットの中で繋がった僕と舞花。この先もずっとずっと離れたくないと思ったあの頃・・・

あの頃がこの先もずっと続くと疑わなかった僕・・・


 それが今は・・・

舞花は必死に病気と闘っている。そして医師も驚くほどの復活を遂げている。舞花は生きようと、それだけを考えて闘っている。それなのに僕は舞花が『癌』だと言うだけで、どこかで舞花の最期を想像している。それは自分の母親も同じ病気で亡くなっているからだろうか?癌と言う病気は治らないものだと自分の中で決めていたからだろうか?とにかく、切なくて辛くて、どうしようもない気持ちでいっぱいになっていた。


『どうしたんだ?僕っ!舞花が死んでしまうと思ってるのか?舞花は死なないっ!今日だって、あんなに元気に、あんなに楽しそうに笑っていたじゃないかっ!余命宣告を受けてる患者の顔じゃなかっただろ?舞花が必死に生きようとしてるのに、僕は何故最期を想像してるんだ?不謹慎だぞっ!』


僕は自分自身に憤りを感じていた。


そんな僕を戒めるように、雪は本格的に降り始めた。空から優しく・・・いや、頭を冷やせと言わんばかりに僕に容赦なく降り注いだ。


雪は舞花の大好きなかすみ草が降っているような感覚なのに今日の雪はかすみ草の花びらがすべて凍っていて固くなっているようで当たると痛かった。


 僕はなんとか気持ちを切り替えようと思った。そして、自分自身に課題を与えた。


“家に到着するまでに楽しい事を5つ考える!”


 1つ目は、やはり間近に迫った喫茶店でのクリスマスイベントだ。

マスターは今年のクリスマスには僕たちに協力してくれることになった。毎年、特に飾り付けはしなかった喫茶店も今年は店内も店の外もクリスマスの飾り付けをした。もちろん僕たちも手伝った。と言うより、僕たちがほとんど仕切って飾り付けたって言った方が正確だろう。ひとつひとつ舞花の喜ぶ顔を想像しながらデコレーションして行った。いよいよ、クリスマスも明後日に迫っている。

 舞花の病状が回復しなければ、この計画はすべてなくなってしまったわけだが、奇跡は起きた!舞花の復活、そして主治医からの外出許可。そうなれば、あとはクリスマスの当日を待つばかりだ。


 僕は、当日の計画を頭の中に描いた。さっきまで後ろ向きだった気持ちが少しずつ明るくなるのを感じた。


 2つ目は、まだ5人でライブをやっていた時のことだった。

毎日放課後に練習をして、週末にはライブを開催していたあの頃。今のような優しい気持ちではなかったが、当時はそれなりに楽しかった。充実感と言うか、達成感と言うか・・・そんな感情で一杯だった。今考えると、プロでもない僕たちの歌を聴きに来てくれていた人達に感謝もせず、自分たちの実力だと勘違いして気分を良くしていた事も懐かしいが、滑稽にも思えた。


 3つ目は・・・

僕は考えようとした。

その時だった。


何も気配など感じなかったが後ろから何かが僕に迫っていたらしい。


そして僕は意識をなくした・・・

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