第18話【奇跡の花2】

誠也も気持ちが少し落ち着いて来た様子で、


「今日は舞花の様子を見に行かないか?それとも学校行くか?」


と言って来た。僕は即答で、


「様子見っ♪」


と答えた。誠也は制服を着ていなかった。今日は学校に行く気など全くなかったらしい。

僕も着替えて、家を出た。


 病院に到着すると、午前中と言う事もあり患者でごった返していた。僕たちはそんな患者を横目に病棟へと上がれるエレベーターへと急いだ。


エレベーターが開くと、中から昨夜僕が舞花にかすみ草を渡してくれとお願いしたナースが出て来た。


「あら?あなたは・・・」


ナースも顔を覚えていたらしい。僕と誠也は軽く会釈してエレベーターに乗り込もうとした。


「ちょっと待ちなさいっ!」


僕たちをそのナースは引き止めた。そして、


「今、何時?」


と怖い声で聞いて来た。僕たちはまだ面会時間ではないから怒られてると思い、


「時計、持ってないっす・・・」


と答えた。するとナースは自分の時計を僕たちに見せ、


「今は学校に行ってる時間でしょ?こんな所で何してるのよっ!」


と怒鳴って来た。


『そっちか・・・いまどき”学校に行ってる時間でしょ⁉”なんて叱り方、しないだろ?』


怒られてるのに、不謹慎にも古臭い言い方に僕は少々ハマってしまった。僕がうすら笑いをしていたのを見逃さなかったナースは、


「何?何がおかしいの?」


と突っ込んで来た。僕は慌てて、


「いえっ!別に・・・」


と言った。僕たちを見てナースは、


「確かに昨日の今日だから舞花ちゃんが心配なのは分かるけど・・・今日も舞花ちゃんとは面会出来ないわよ。あれから熱が出ちゃって。解熱剤が効いて来たらすぐに放射線治療を始めるらしいの。しばらくは学校にも行けないかもしれないわ。」


と舞花の様子を教えてくれた。僕たちは、


「外側からでもいいから舞花を一目見たいんです。」


と頼んだ。ナースの答えは、『NO』だった。


「そこを何とかっ!」


僕たちは必死で頼んだ。そこへ舞花の主治医が通り掛かった。


「君たち、こんな所で何してるんだ?」


僕らはすっかり顔馴染みになってるらしい。


「あの・・・舞花の様子が気になって・・・」


意外にもこんなしどろもどろに言ったのは、あの誠也だった。本当に舞花の事が心配だと言うのが誰にでも分かるほど声が震えていた。


 主治医は、


「今は無理だ。治療中だし、夕方ならもしかしたら逢う事は・・・と言うか、病室の外からだけど、出来るかもしれない。今、あの部屋は無菌室状態になってるから面会も出来なくなってるんだ。」


と教えてくれた。


「無菌室状態?それって危険な状態ってことなんですか?」


僕が聞き直した。主治医は、


「抵抗力がかなり落ちててね。実は昨夜、ちょっと危険な状態になったんだ。それが明け方6時頃に急に持ち直して。話しなんて出来ない状態だったのに、いきなり『夢を見てた』って。『大好きな人に膝枕をしてもらった』って嬉しそうに教えてくれて。その後、一気に持ち直したんだよ。」


と言った。僕は、ドキッとした。舞花が苦しんでいた時間、僕も同じように身体が動かなくなっていた。そして、舞花が見た夢が僕が幸せな気分になったあの夢と同じ夢なのだ。こんな偶然があるものなのだろうか?

 舞花が持ち直したあと、僕の身体も動いた。舞花が身動き取れなかったから、僕も動けなかったと言うのか?どちらにしても同じ夢を同じ時間に見ていたのは奇跡だと信じたかった。


 そう・・・

奇跡はきっとあるっ!


舞花はきっと奇跡を起こすっ!


僕はこの時、何の根拠もないこのふたつの気持ちが何の迷いもなく信じられた。

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