第14話【クリスマスの花1】

 僕たちはまた3人で一緒にいる時間が増えた。舞花には誠也にも伝えた事をしっかりと告白しておいた。舞花は、


「私が自分で言おうと思ってたのにぃ~!」


と僕を叩いたが、その力が確実に弱くなっているのを僕は感じていた。僕に病気を告白した時の『根性叩き直してやる!』と言いながら僕の腕を掴んだ時の力強さはなくなっていた。


 期間にしたら、まだ2週間ほど・・・と言うところだろう。こんなに急激に病気は悪化するものなのだろうか?と僕は思ったが、特に言葉に出すつもりはなかった。


誠也が、


「クリスマス、3人で過ごさねぇか?どうせ彼氏も彼女もいないんだからよっ!」


と提案した。


「何それ?失礼ね。私は病棟にたくさんいるわよ。私の事、好きって言ってくれる人♪」


舞花が言った。僕は、


「僕たちだって、舞花の事好きって言ってるじゃないか!舞花だって僕たちが好きなんだろ?だったら、3人で恋人・・・でいいじゃんか!」


と、その場の雰囲気を崩さないように言った。


「だな!何せ、舞花は堂々と二股宣言したんだしな。」


誠也が加勢した。僕たちの言葉に舞花は、


「2人とも意地悪ねぇ~。私が二股宣言したとか言っちゃってさ!・・・でも、クリスマスっていつも病院だったから、今年は3人で何処かで食事でもしたいね♪」


少し拗ねたように言いながらも楽しみにしている様子だった。


「行きたい場所ってあるか?」


誠也が僕と舞花に尋ねて来た。

僕は特にオススメポイントなどを知らなかったから黙っていた。すると舞花が、


「私ね♪学校の近くの商店街がいいっ♪」


と言った。


「商店街?」


僕と誠也は同時に聞き直した。

舞花は楽しそうに続けた。


「そう♪商店街。あそこのイルミネーション、すっごく綺麗でしょ?それに気付いてた?あそこって、私が大好きなかすみ草がたくさん咲いてるのよ。あそこに行くとすごく落ち着くの。だからっ!クリスマスは商店街に行こうっ♪」


僕も誠也も気が抜けた。

何が楽しくて、クリスマスに商店街なんだ?って顔で呆然とした。そんな僕たちを見て、舞花はニッコリとほほ笑んだ。


 舞花の笑顔を見てるだけで僕は心が穏やかになって行くのを感じていた。舞花と一緒なら何処だっていい!って気持ちでいっぱいになっていた。だから・・・


「舞花がそこでいいって言うんだったら、いいじゃん。商店街を歩きながらイルミネーション見て、疲れたら休んでさ。」


と言ってしまった。誠也はもっと気の利いた場所に連れて行きたかった様子だったが、


「変なやつ・・・」


と言いながらも納得した。



 クリスマスに商店街。

まるで、母親が買い出しにでも来てる気分を味わえるかも知れない。


僕はそんな事を思っていた。


「ありがとぉ~♪あの商店街の中にある小さな喫茶店から見るイルミネーションが最高なんだよ。今からちょっと行ってみようか?」


舞花は相変わらず楽しそうに言った。


 僕たちは同意した。そして3人で歩き出した。


クリスマスまであと20日という日だった。



 しばらくして商店街に到着した。舞花が言っている喫茶店は商店街のちょうど中心地点にあった。商店街の中心には大きなモミの木が立っている。毎年、12月1日からこの木はクリスマスツリーと化す。今年も例外ではなく、派手な飾り付けがされていた。

 喫茶店の窓際をキープすればそのツリーがバッチリ見える。

 僕たちは喫茶店に入った。

そして、ちょうどいい席に座って見た。


「おぉーーーー!ここ、クリスマスにも空いてるといいなぁ♪」


舞花が窓の外を見ながら言った。それを聞いた誠也は、注文を取りに来たマスターらしき人に、


「ここってクリスマスは予約出来ますか?」


と聞いた。さすがにそう言う機転は早いのが誠也だった。マスターらしき人は、


「毎年同じような事をおっしゃるお客様がたくさんいらっしゃいますが、特に予約制にはしておりません。」


と答えた。


「そうですか。」


誠也はそれだけ言うと何か考えている様子で窓の外を見た。


『この席にクリスマスの夜、座れたら、舞花も寒い思いをしなくて済むし、見たがっているイルミネーションもバッチリだな。』


僕は何とかしてこの席をキープ出来ないものか考えていた。それは、誠也も同じことだった。


 しばらくそこで3人はのんびりと過ごした。

舞花オススメのホットココアを3人で取り、舞花のこだわりに付き合った。


「ココアはね、まず最初にこの上の部分の泡を飲んでみるの。その後ゆっくりかき混ぜてから飲むと、泡の味とココアの味が違うんだよ♪1杯で二度のおいしさを味わえるって知ってた?」


舞花にそう言われ、僕たちは言われた通りの飲み方をしてみた。


『ホントだ!最初の泡は甘いんだ!あとからのココアの味が引き締まった感じがする!』


僕は、素直に感動した。僕のそんな顔を見ながら舞花は、


「タケルは素直だねぇ~♪でも美味しいでしょ?」


と顔を近付けながら言った。どうも舞花は人に何かを尋ねる時に顔を近付ける癖があるらしく、僕はそのたびにドキドキしてしまうのだ。


 近付けられた顔から離れながら僕は、


「うんっ!美味しいな♪」


と言った。


「いい加減慣れろよ。」


僕の行動を見た誠也がボソッと呟いた。


「えっ?何が?」


最初にその言葉に反応したのは舞花だった。と言うか、舞花に先を越されてしまったと言う感じだった。


「タケルだよ。お前さ、舞花が近付くとさり気なく離れるよなぁ~。見てて笑えるぜ。全然さり気なくねぇし。」


誠也は楽しそうに言った。


『どうせ、僕は誠也みたいに恋愛に慣れてないよっ!』


僕は少し・・・いや、かなり拗ねていた。慣れろと言われてもそう簡単には慣れられない。僕にとっての初恋の相手・・・なんだろうからなぁ、舞花は。


「アハハ♪タケル、照れてたの?私、全然気が付かなかったよ。そぉ言われてみればいつも私が近付くと離れてたよね?私がメッチャ可愛いから照れちゃってるんだね♪可愛いやつぅ~♪」


舞花は屈託のない笑顔で言った。その直後だった!



 突然、舞花の身体が傾いた。

僕たちは、舞花と誠也が隣同士で座り、僕が2人の前に座る形で座っていたが、誠也がいる方とは反対の方に舞花が傾いて行ったのだ。

 僕は慌てて席を立ち舞花を支えようとした。誠也も異変に気付き舞花の身体を自分の方へ引き寄せようとした。

タッチの差で誠也の手が舞花を支えるのが先になったが、舞花の意識がなくなっていた事に僕たちは焦った。


「舞花!」


僕たちは2人で舞花を呼んだが、返事はない。僕はすぐに救急車を呼んだ。救急車が到着する間も2人で舞花を呼び続けた。


『今、行かれたら困るっ!まだ行かないでくれっ!』


僕は必死に願っていた。きっと誠也も同じ気持ちだったに違いない。


 しばらくして救急車が到着した。僕たちは一緒に乗り込み、舞花の入院先へと急いだ。救急車から病院には連絡が行ったらしく、病院に到着するとドクター達が外で待機していてくれた。

 素早く救急車から下ろすと、ドクター達の処置が始まった。処置しながら院内に運び込まれた舞花の顔は・・・いや、全身は真っ白になっていた。


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